ELYSIUM
エリジウム
採点:★★★★★☆☆☆☆☆
2013年9月28日(映画館)
主演:マット・デイモン、ジョディ・フォスター
監督:ニール・ブロムカンプ

第9地区」の監督作品第2弾、かつ主演はマット・デイモンってことで期待していた作品。

2154年、大気汚染によって地球上の生活環境は悪化し、富裕層と貧困層の生活は大きく異なっていた。少数の富裕層は宇宙空間に浮かぶ"エリジウム"へ移住。高度な科学技術により、どんな病でも治してしまう医療ポッドにより不老不死を現実のものとし、水と緑にあふれた理想郷で暮らしている。
一方の貧困層は地球の劣悪な環境下での生活を余儀なくされていた。ある日、ロサンゼルスに住むマックスは工場での作業中に大量の照射線を浴び、余命5日と診断される。マックスは医療ポッドに希望を求め、エリジウムへと向かうためにスパイダーという裏の世界を取り仕切る人間と取引を交わす・・・。

うーん、面白いけど、なんかなぁ・・・。
前作が低予算ながら宇宙人と地球人のバディ・ムービーという何とも斬新な設定を用いて、長編初監督ながら歴史に残る作品を作ったことで、今作は前作とは比べ物にならないくらいの予算とトップ・スターの出演を勝ち取ったのだが、前作ほどの斬新さはなく、細かい描写部分にも不備が目立った。
この作品のタイトルにもなっている宇宙空間に浮かぶエリジウム。この造型は遠心力で重力を作り出すというガンダムのスペース・コロニーで見てきたせいもあって、斬新さはそこまでない。唯一斬新だと思ったのが、屋根もないのに外出できるという酸素供給システムだが、宇宙空間でどのような仕組みで成り立っているのか?その説明がないのが、残念・・・。空気バリアでもしてあるのかと思ったが、地球からのシャトルが何事もなく着陸できるところを見ると、そうでもなさそうだ・・・。一体どうなってんだ!?
またエリジウムの防衛に対する危機感もあまりにも薄い。不法移民を載せた未確認シャトルを認知するものの、それを撃退する手段は地球からのロケットランチャーのみで、シャトル3機が接近した際には1機は取り逃がし、エリジウムへの着陸を許してしまった結果、最終的にはドロイド頼みというお粗末さ。マックスを追い詰めたクルーガーが銃弾を逸らす電磁シールドのようなものを装備していたが、それを侵入防御バリアとして不法移民を載せたシャトルに対して使用するくらいの見せ方は欲しかった。
ましてやエリジウムに乗り込んだ3人だけでクーデータを成功させてしまう設定もいかがなものか?3人でとてつもない大逆転の発想があったのならまだしも、腕ずくでの直線突破!さすがにそれはないわ・・・と思わないでもない。

そしてエリジウムに関して最もダメだったのが、地球の貧困層が憧れているはずの富裕層の住処が魅力的でないこと。例えばこの世の中でビバリー・ヒルズを考えてみると、そこには憧れがあるはずだ。世界に名立たる超高級住宅街であり、ハリウッド・スターも数多く住んでいる。そこに自分も住んでみたい!そういったエリジウムに関する描写がないため、命を懸けてまで訪れたい!と誰もが思うような魅力的な場所には見えないのだ。少しだけ申し訳程度にパーティーのシーンが描かれているが、そこから楽しそう!という感覚は伝わってこない。
唯一エリジウムの存在価値が見て取れるのは医療ポッドくらいだろうか・・・。しかしそのポッドも富裕層のみに限定する理由が正直見当たらない。原材料が限られていて、装置自体が非常に貴重なものかといえばそうでもなく、実際量産されている描写も見受けられる。それを独占するだけの理由も劇中では語られていない。
エリジウムは素晴らしい世界で、地上の人々はそこに大いなる憧れを抱いて密入国するのではなく、医療ポッドが目的という描写の仕方は正直響かなかった。

また工場内で照射線を浴びてしまったマックスだったが、皮膚がただれるなどの外的変化はない。そういうものだと言われてしまえばそれまでだが、せっかくなので外的変化も付け加えて、それを補うために強化パーツやら強化スーツを着るという設定にした方が良かったのではないだろうか?
また強化スーツを着たわりにはそこまで強くなっていないのも設定としてはどうだろうか?ドロイドとかにも結構苦戦していたし、クルーガーとの戦いでもあまりこれといった目覚ましい活躍はしていない。ドロイドとは圧倒的な力の差を見せつけた上で、クルーガーに苦戦する描写を入れればクルーガーが最強の敵として際立つなどの効果もあったはずだが、ドロイドもクルーガーも大した差がないように見えてしまい、クルーガーとマックスの戦いがそこまで緊迫したものに見えなかった点も残念だ・・・。

そして最も不要だったのが、ヒロイン。主人公であるマックスの幼馴染としてオープニングから登場するのだが、恋愛関係があるわけでもないし、その後の展開を考えるといわゆる"ヒロイン"ではなく、多くのサブキャラの1人でも十分。せっかく登場する娘もマックスの子供ではないし、「私は複雑な事情を抱えているの」の言葉を繰り返すのみで、その事情は語られることなく、作品は終わってしまった・・・。
ヒーローとヒロインとしていかにも意味深なオープニングを描いておきながら、最後のオチへの落とし込が弱すぎて、残念。それに付随してマックスが子供の頃に言われる「あなたは特別な存在」的な言葉もいまいち味付けが弱すぎて消化不良。
もしかしてこの監督、人間ドラマの描写が苦手なのだろうか?

と今までダメな点ばかりを書いてきたが、5点を付ける以上、良かった点ももちろんある。
まずは敵役クルーガー。上述したようにマックスの強化スーツの設定上、このクルーガーがそこまでの強敵には見えないのだが、人物描写自身は素晴らしい。地球に潜入しているという設定も良いし、トチ狂った豪快な性格もいかにも敵役って感じだ。特に地球からミサイルをぶっ放したりするあたりの描写は敵役ながら、こいつ面白い!と思わせるだけの説得力がある。

また久々に見たジョディー・フォスターにも感動した。相変わらずお綺麗な外見とは裏腹に冷徹漢ならぬ冷徹女を演じているのだが、外見がすごく知的な女優さんなので、この役にピッタリ。ただし彼女の最後があまりにもあっけなさ過ぎる点が残念。

細かな設定は突っ込みどころ満載ではあるものの、近未来の貧富の差を描いた下剋上物語というハリウッドのSF映画の王道的ストーリーのため、見ていて飽きるというようなことはないし、ドロイドやエリジウムなどのCGも一級品。
こういったジャンルが得意な監督(例えばスピルバーグ・・・)版の「エリジウム」が作られるのであれば、ぜひ見てみたい!

一口コメント:
傑作、「第9地区」の監督の長編第2弾で、SF映画としては王道ではあるものの、人間ドラマや細かい設定などに関しては多少問題が・・・。次回作に期待したい!

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