ホビット 竜に奪われた王国
採点:★★★★★★★☆☆☆
2014年4月1日(映画館)
主演:マーティン・フリーマン、リチャード・アーミティッジ、イアン・マッケラン、オーランド・ブルーム
監督:ピーター・ジャクソン

ロード・オブ・ザ・リング」シリーズの前日譚とも言うべき"ホビット"3部作の第2弾。消費税が5%から8%になったことで映画の日も1000円から1100円に値上げとなった初日に鑑賞した。

ドワーフ族の王子トーリンは、13人の仲間と灰色の魔術師ガンダルフ、そしてホビットのビルボと邪悪な竜・スマウグに奪われた王国の奪還を目指して旅を続けている。オーク達の追撃をかわしつつ、冒険を続ける彼ら。そんな中、ガンダルフは闇の森の手前で旅の仲間達と別れ、邪悪なネクロマンサーの噂を確かめるため1人で別の場所へと向かう。
ガンダルフと別れたドワーフ達は巨大なクモの巣に紛れ込んでしまい、クモに捕食されかける。そこに現れたエルフ族によりその場を逃れることができた。しかし助けてくれたはずのエルフ族はドワーフを嫌っていて、彼らに捉えられてしまう。姿を隠していたビルボによって何とかそこから脱出し、樽に乗って川を下っていくが、そこに再びオークが現れる―――。

さすがに3部作の第2部ということで、予想通りの仕上がり。第1部の物語を受け継ぎつつ、完結編となる第3部へと最高に盛り上がった状態で終わりを迎える。そして第1部で物足りなかった13人のドワーフも少しだが1人1人のキャラクターの掘り下げがあり、第1部よりもキャラクターに親近感を覚えやすい。
とはいえ、感情移入するまでには至らず・・・。前のシリーズが1人1人の心の葛藤が描かれていたのに対し、このシリーズは第2部に至るまでその部分の描写が少ない。ドワーフの王子トーリンがそれらしいシーンがなくはないが、前シリーズにおいてアラゴルンが示した王としての威厳のようなものが感じられない。人間とドワーフでは種族が違う、あるいは王と王子の違いなのかもしれないが、王族という心の葛藤を描くには持ってこいの設定なので、その部分をもう少し描いて欲しい。
その点、前シリーズはボロミアという重要なキャラクターが死んでいて、その死がもたらした様々な心の葛藤が物語りに深みを与えている。

種族が違うといえば、前シリーズでは人間とエルフという種族を超えたアラゴルンとアルウェンの愛が描かれていたが、今作にもそれらしい前振りが描かれていた。今回はドワーフとエルフという設定。こちらの結末も完結編に持ち越し。
そして完結編に持ち越しという意味では終盤に登場したバルドのキャラクターも興味深い。人間でありながら弓使いという設定はエルフと被るのでは?と思いつつ、家族を抱えていて、完結編では心の葛藤をたくさん見せてくれそうな感じ。さらに竜を倒せる黒い矢を持っていて、そういった意味でも完結編ではかなり重要なキャラクターになりそう。
一方このバルドのおかげで大変な目にあったドワーフ達。魚で一杯になった樽に隠され、果てはトイレから登場する始末。スリリングな展開の中で一息つかせてくれたという意味でも実はこのバルドというキャラクターは重要か?

そして本家本元の弓矢の名人・レゴラス。前シリーズでも超人的なアクションを見せてくれたが、今作でも同様のアクションを見せてくれる。中でも樽で川を下っていくシーンはスゴい。格好良いと言えばそうなのだが、見方によっては笑える。川を流れていく樽に入ったドワーフの頭を踏み台にしながら次々と飛んでいくレゴラス。スリリングなシーンでありながら密かに笑えるシーンでもある。
そしてレゴラスといえばその殺し方がエグイ。弓で射るだけでなく、刀も使い、敵の頭に弓を挿したまま余った手で首を切る。すると体だけが谷へ落ちていき、頭だけがレゴラスの目の前に残る・・・。言葉で書くとそこまででもないが、映像で見るとエグ過ぎて笑える。前シリーズ以上にドワーフ達に対して強い敵対心を持っていることを端的に表しているのかもしれない。

ところで、この”ホビット"シリーズはもともと2部作として作られる予定だったのが、製作段階でいろいろあり、3部作となった―――というバックグランドがある。なので、正直前シリーズと比べて今回の第2部は内容的には薄いだろうと思っていたが、良い意味で裏切られた。
第1部が長いなぁと感じた点に関しては今作はアクション・シーンが多く、長いと感じることはなかった。前作から続くオークだけでなく、熊や蜘蛛などの巨大生物に襲われ、味方だと思ったエルフ族の里からも大脱走シーンがあり、最後には竜との戦闘もあり、飽きることはない。しかもそれらの間に樽アクションもあり、最後にはドラゴンに"樽ライダー"なんて言わせてしまうのだから、その辺りのつなぎ方も上手い。

その一方で最後のドラゴンが最終的なボス・キャラになると思うのだが、ビルボとおしゃべりしすぎて恐怖の対象としてはちょっと残念。ドラゴンがしゃべるという設定はファンタジー世界ではよくある設定で、知性の高い生き物というのが定説となっているので良しとしても、やはりしゃべりすぎ。問答無用で襲い掛かってくるくらいのほうがその恐ろしさが増すと思うのだが、その辺りどうなんでしょう?
さらにせっかく灼熱の炎を吐いているのに、その炎の威力がどれだけ凄いのか?ってのが上手く描けていない。人間よりも小柄で俊敏ではないはずのドワーフが大勢いるのに、全員炎から逃げられるし、誰も傷つかない。1人くらい傷つくなりして、動けない中、仲間を見捨てて、命からがら逃げるくらいの展開をしてくれないと竜の強さが伝わらない。しかもゆっくりとビルボとおしゃべりするし・・・。
次作は完結編なので、竜の強さを際立たせた上で、絶体絶命からの逆転劇を見せて欲しい。

そして上述したように各キャラクターの内面の掘り下げや心の葛藤を描くシーンがないため、感情移入しにくい。そこが前シリーズと大きく異なる点であり、完結編でその辺りがどうなっていくのか?楽しみな反面、不安でもある。前シリーズがただの実写版RPG冒険映画ではなく、キャラクターのドラマ部分も掘り下げがあり、興奮と同時に感動も味わえたのに対し、今シリーズは今のところ興奮のみ。完結編に期待したい!

一口コメント:
第1部よりも盛り上がり、"興奮"においては前シリーズと同レベルではあるが、"感動"においては完結編に期待か?

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