Pacific Rim
パシフィック・リム
採点:★★★★★★★★☆☆
2013年8月16日(映画館)
主演:チャーリー・ハナム、菊地 凛子、イドリス・エルバ、ロバート・カジンスキー、チャーリー・デイ
監督:ギレルモ・デル・トロ

芦田愛菜ハリウッド・デビュー作ってことで・・・ってわけではなく、巨大ロボットvs巨大怪獣映画ということで見てきました。

太平洋の深海の裂け目から謎の巨大生命体が出現し、サンフランシスコを襲撃。わずか6日間で3つの都市が壊滅する。KAIJUと名づけられた巨大生命体に対抗するため、人類は国を超えて団結し、巨大ロボット・イェーガーを開発し、KAIJUとの戦いに乗り出す。当初は人類が優勢に戦いを進めたが、KAIJUは現れるたびに進化を遂げ、人類は徐々に苦境に立たされる・・・。
それから10年が過ぎても、人類とKAIJUの戦いは続いていた。かつてKAIJUとの戦いの最中に兄を亡くし、失意のどん底にいたイェーガーのパイロット、ローリーは、昔世話になった司令官に誘われ、再びKAIJUと戦う決意を胸に香港へと向かう。そこで出会った日本人研究者のマコ・モリとコンビを組み、昔兄と搭乗していた旧型イェーガーのジプシー・デンジャーを修復し、再びKAIJUと戦いへと向かう―――。

いや~、久々に興奮した。
トランスフォーマー」を初めて観た時以来の・・・というと少し大げさかも知れないが、それに似た衝撃だ!

幼少期に日本のロボットアニメを観て育った人間であれば、日本人だけでなく、世界中どこの国の人間であれ、この作品を見て興奮するのではないだろうか?=男の子に限る・・・ということになるかもしれないが・・・、「トランスフォーマー」もそうだったし・・・(自分の周囲で同じような興奮を分かち合えるのは男性が圧倒的多数)。
「マジンガーZ」、「機動戦士ガンダム」、「エヴァンゲリヲン」といったパイロット搭乗型ロボットアニメの流れを思い切り汲んだ・・・というか、これら作品にオマージュを捧げたこの作品。主人公の乗るイェーガー、頭部に乗って、それが体にドッキングされる流れは「マジンガーZ」以外何者でもないし、シンクロしてしまうのも「エヴァンゲリヲン」以外何者でもない。他にもロケット・パンチなんて必殺技が出された日にゃ、そりゃもう男心くすぐられまくりですよ~!
パイロットの着るパワード・スーツもGANTZスーツを連想させる。この監督どれだけ、日本ラブなんだ!?

上述したように巨大ロボットと怪獣の戦いを描いたってだけで、世の中の大半の男性は興奮してしまうわけですが、この作品はそこにハリウッドの王道の方程式が取り組まれている。
わかりやすく言うなら「インディペンデンス・デイ」的展開。複数の登場人物がいる群像劇で、敵との戦いが何度かある中で徐々に苦境に立たされ、最後に大逆転⇒ハッピー・エンド。実際、司令官の演説なんて、「インディペンデンス・デイ」でビル・プルマン演じる大統領の演説そのもので、「今日が我々の独立記念日だ!」とか言い出しそうな雰囲気だったし・・・。

そしてそんな王道的展開に何か新しい要素を入れるのもまたハリウッド映画が世界に君臨する所以でもある。この作品の場合、それがパイロットが2人必要で、お互いにシンクロするという点。「エヴァンゲリヲン」でも同じような設定があったが、アニメの場合は、パイロットとロボットのシンクロであって、この作品はパイロット2人(中国版イェーガーは3人)とロボットの3体のシンクロ。その中で人間2人の脳がシンクロするという設定が実に上手い!
シンクロ率が高ければ高いほどイェーガーの能力を引き出せるという設定のため、親子や兄弟といった、もともと同調性の高い血縁者がパイロットになっていたりするのだが、そこに当然のように恋愛関係というのが出てくる。もしかすると何で2人に恋愛感情が芽生えたのか?わからない人がいるかもしれないが、1度でもシンクロしてしまえば、過去の体験をも共有できてしまうため、本来なら長い時間をかけて積み重ねていくはずのお互いの想いも一瞬で伝わってしまう(反面観ているこちらとしては物足りない部分でもあるのだが・・・)という設定なのだから、そこに恋愛感情の芽生えるまでの描写がない!とか、「愛してる」の言葉がない!なんて突っ込みは野暮だ・・・。
そのため、この手の作品にありがちなダラダラとした恋愛要素はサラッと流れ、その分バトル・シーンに時間も情熱も注ぎ込めているのだ。

そして2つがシンクロするという意味では、芦田愛菜ちゃん演じたマコの幼少期に持っていた赤い靴の片方を、大人になったマコの前に司令官が持って登場するシーンも素晴らしい。マコが抱えてきた心のトラウマを2つの靴が揃うことでトラウマが解け、さらに司令官の心のトラウマも解け、違う意味で2人がシンクロする。
その後、司令官は決死の覚悟を持ち、マコも直前の失敗を跳ね除け、再びイェーガーに乗り込む・・・という素晴らしい橋渡しも兼ね備えているのだから、実はこの作品の中でも重要な名シーンかもしれない。

そしてもう1つ、シンクロが重要なのはコメディー担当の2人の博士。数字を追求する博士と怪獣オタク博士という互いに反発しあうお茶目な2人組がひょんなことからシンクロし、その2人が世界を救うキッカケを作るのだが、このあたりの展開も王道ハリウッドらしい。

オタクという意味ではパイロット・スーツの汚れ方を見た時に、この監督オタクだわ~と思った。この手の作品の場合、初登場シーンはピカピカのものが出てくるのが常だったのだが、この作品においては初登場シーンでかなり汚れたスーツが登場し、アニメ好きが喜ぶポイントをわかってるなぁと感じた。
同じ意味でイェーガーの造型もオタク心をわかっている。あまり流線型なフォルムにされると巨大感が出ないし、重厚感も伝わらない。やや時代遅れな雰囲気すら漂うあのアナログ感満載なフォルムが男性(いや少年)の心をくすぐるのだ!
そしてミサイルなどの遠距離攻撃を使わずに近距離の肉弾戦で描かれているのも好感が持てる。これが遠距離でミサイル・爆弾攻撃で敵を倒してしまったら興醒め・・・。そしてロボットがちゃんと負けるというのも良い。KAIJUが一体のイェーガーを倒したと思って、振り返ったら別のイェーガーが立っているシーンなんて鳥肌もの!

またこういった戦闘ものは、予算の関係や手間隙の関係で、戦闘シーンが郊外だったり、海の中だったりすることが多いのだが(漫画「ドラゴンボール」の作者・鳥山明も背景を書くのが面倒くさいからという理由で悟空vsべジータは岩山で戦わせたりしている・・・)、香港の街中での戦闘シーンがふんだんに描かれている。高層ビルよりも高いイェーガーと怪獣の戦いでビルは容赦なく破壊される。しかもイェーガーが武器として大型タンカーを手にして、怪獣に殴りかかったりしている!!街中を歩いている人間を守らなきゃ!的な描写は一切なく、ある意味ぶっ飛んでいる。この手の作品にそんなものを求めてはいけない。
そして街中を歩くイェーガーを下からのアングルで捉えたり、接近戦でのパンチに重量感を持たせた音響だったりはさすがハリウッド、悲しいかな、日本映画ではここまでの迫力は出せない。

とまぁ、男心・・・もとい、少年の心をくすぐる要素が盛りだくさんのこの作品。
突っ込みどころも満載だ。例えば主人公が兄貴の悲劇を忘れて再びイェーガーに乗るまでの苦悩がないだとか、マコが最初の失敗から立ち直るのが早すぎるとか、海底の裂け目に核爆弾を投下したら地震や津波の被害が甚大だとか、怪獣がどれも似た外観で区別しにくいだとか、上述したロボットvs怪獣は肉弾戦じゃなくて、遠距離ミサイルで倒したほうが良いとか、そもそもロボット自体に人が乗るのではなく、遠距離操作すれば?といった感じで疑問は出てくるのだが、この手の作品に話の深みを求めたり、論理性や感情移入を求めるのは野暮。

何度も野暮というキーワードを繰り返してきたが、この作品の続編を求めるのは野暮だろうか?
しかしそう思わずにはいられないほどキング・オブ・ハリウッドかつキング・オブ・B級映画でした。

一口コメント:
「マジンガーZ」+「エヴァンゲリヲン」÷2的作品でした。

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