ボーン・レガシー The Bourne Legacy |
「ジェイソン・ボーン」シリーズの続編ではあるものの、当初主演を演じる予定だったマット・デイモンが監督と共に降板したが、"ボーン"の看板に魅かれて見に行った作品。
暗殺のスペシャリストを養成するCIAの極秘プログラム。この計画が生み出した最強の暗殺者ジェイソン・ボーン。彼が自身の失った記憶を追いかけながらCIAとの戦いを演じていた裏で、もう1人の暗殺者アーロン・クロスもCIAの陰謀に巻き込まれていた。
CIA上層部は彼らと同じプログラムに従事する暗殺者を抹殺するとともに、プログラム関係者である科学者をも拉致しようとしていた。そんな中アーロンは無人探索機の爆破を間一髪のところで逃れ、体内に埋め込まれた追跡用のシグナルを、襲ってきた狼へと移し変え、何を逃れていた。そしてアーロンは科学者の1人、シェアリングをCIAの暗殺チームから救い、一緒にマニラへと向かった―――。
結果としては、脚本的にもアクション的にも残念な結果でした。
マット・デイモン主演の3部作がかなり良かったこともあり、期待値が高かったこともあり、この作品にもそれなりの期待をしていたのだが、ストーリーは特にこれといった謎が解き明かされるどころか、謎そのものが提示されることもなく、最初から最後まで特に盛り上がることもなく、簡単に言えば山も谷もない平原で、ずっと一本調子だ。
過去3部作が主演のジェイソン・ボーンが記憶をなくした状態で、自分が何者なのか?というテーマが根底にあったのに対し、この新作はその部分が薄い。しかも話の中心人物がアーロンではなく、学者のシェアリングになっている感じも拭えない。特に後半はその傾向が強い。
またシリーズの売りでもある、アクションも過去3部作で見たことあるようなシーンばかり。建物の屋上やら、バイクやら過去3作でまったく同じことをしている。しかも過去3部作よりも質が低い・・・。例えば街中での足でのチェース・シーン。屋根の上を逃げるアーロンとそれを追う暗殺者。モロッコの「ボーン・アルティメイタム」でも同じことをしていたし、カメラ・ワークも前作のほうが緊迫感があり、ワクワク感が半端なかった。屋根から部屋の中にジャンプするシーンなどはその典型例と言える。
これは監督の力量の差が出てしまったとしか言えない。簡単に言えば、"屋根の上を逃げるアーロン"と脚本に書いてあるものを、カメラを通して撮影したものを、いかにスクリーン上で観客に届けるか?の力量である。
個人的には前作の中で最もしびれたロンドンの駅でのさりげないチェース・シーン(走ってないのでチェースですらないかもしれない・・・)。あの緊迫感を出せるのは前の監督だけであり、監督の降板を理由に降りたマット・デイモンの判断も素晴らしい。
ただし、今作の監督も過去作品の脚本家というだけあって、設定そのものは面白い。ジェイソン・ボーン以外にも同じ境遇の暗殺者が複数いる!このプロットだけで、このシリーズは無限に拡大できるのだから。
でもそれだけ・・・。今作に関してはいわゆる起承転結が薄い。例えば冒頭の極寒地の訓練所。なんでこの場所!?という思いがずっと頭を埋めていた。暗殺者としての訓練なのに、人がいない場所で訓練するのか?と思っていたら、最後には狼が出てきてしまう始末。訓練としては人の多い都会の地下にある秘密場所とか、見た目は普通の高層ビルのないはずの15階と16階の間とか、だったら面白かったかな・・・。
またアーロンを追う暗殺者が、見た目の地味なアジア人で、しかも暗殺者としてのレベルが低く、それがチェースの盛り上がりが欠ける要因にもなっている。
キャスティングに関しても、ジェレミー・レナーは暗殺者としては顔が平和すぎるというか、影がない。マット・デイモンが暗殺者としての眼光の鋭さと、それとは裏腹に記憶をなくしたという影=闇の部分を併せ持っていたのに対し、ジェレミーは垂れ目なせいもあってか、怖さがないし、幸福そうなイメージが感じでおおよそ"影"とか"闇"を感じられない・・・。
しかしヒロインのレイチェル・ワイズは良かった。40歳を超えているとは思えない美貌の持ち主で、学者としての知性、女性としての儚さ、そして逆の女性としての凛とした強さみたいなものを場面に応じて演じ分けていて、後半は彼女のおかげで作品を見ていられたと言っても過言ではな・・・、いや過言だな、さすがに・・・。
結論としては、ボーン・シリーズ番外編とでも言うべき位置づけの作品で、内容もストーリー・アクション共に番外編レベルです。個人的にはタイトルもボーンという名前は使わなくて良かったのでは?とも思う。