TIME タイム/In Time |
日本に一時帰国した際に、飛行機の中で見た作品。
人間の成長が25歳で止まり、腕に記された時計が示す余命時間だけ生きることができる近未来。通貨の代わりに時間で売買が成立する社会。スラムに住む貧困層には余命時間が1日分しかない一方で、富裕ゾーンに住む富裕層は永遠にも近い時間を手にする格差社会が生まれていた。
ある日、ハミルトンという謎の男から116年分の時間を譲り受けた貧困層のウィルだったが、その直後、母親がわずか1秒という時間のために息絶えてしまう。悲運を嘆いたウィルは、タイム・ゾーンを超えて富裕ゾーンへ向かう。そこで出会ったのは大富豪の娘シルビア。そこに時間を監視するタイム・キーパーのレオンが現れ、ハミルトン殺害の容疑でウィルを追う。レオンに追い詰められたウィルは、近くにいたシルビアを人質にして逃走。何度もピンチを切り抜ける中で、2人の間に身分の違いを超えた恋心が芽生え、執拗な追跡をかわしながらの逃避行が続く・・・。
お金の代わりに時間が通貨となるというアイデアは各段に面白い。コーヒー1杯4分だとか、バス乗車一回2時間だとか、高級ホテル一泊余命二ヶ月・・・といった具合で細かい設定がいくつも出てきて、面白い。そしてスラム街では少しでも時間=お金を稼ぐために走るのだが、富裕ゾーンでは時間が有り余っているため、誰も走らないという設定も面白い。だから主人公が富裕ゾーンで走っているのが妙に目立つという絵が成り立ち、それがきっかけでシルビアとも結びつく・・・。
さらに、時間=お金という設定だが、大きく異なるのはお金はなくなっても死なないが、時間はなくなると即死という点。だから最初のポーカーで全財産(=自分の生死)をかけるのも、単純にお金をかけるよりもより緊迫感が増している。
さらにこの世界では"お金持ち=不老不死"という設定になるため、人によってはいくつになっても死ねないという考え方も起こり、それがこの作品のオープニングを飾り、一人の富豪が時間を譲り、死を望むという掴みも成立する。
といった感じであっという間に世界観に引き込まれる。
そしてもう1つの"25歳で成長が止まる"という大きな設定。こちらも目が覚めてキッチンに行くと若い女性がいて、観客に「彼女か?」と思わせるが、そこで主人公が発した言葉は「おはよう、お母さん!」。笑えるし、オープニングとしてはバッチリだ。
しかし25歳で成長が止まるはずなのに、タイムキーパーをはじめ、明らかに25歳で成長が止まっていない人間がチラホラ画面上に見え隠れしたのは大きなマイナス。
さらなるマイナスとしては、主役2人のキャラ設定が薄い点。もう少し掘り下げて、なぜシルビアがウィルに惹かれていったのか?逆になぜウィルはシルビアに惹かれていったのか?を描いておけば世界観だけでなく、感情移入という点からも作品を楽しむことができたはず。せっかく身分違いの恋を描いているのに、この辺の心理描写が薄くもったいない・・・というか、2人が愛し合っているというよりは仕事上のパートナーといったほうがマッチする。
またシルビアの父親の子供に対する愛情の描写もやや矛盾を感じる。娘を危険から守るためにボディー・ガードをつけているのに、娘に対する身代金は一切払わない。お金(=時間)と娘の命を天秤にかけてお金を取ったわけだが、それならそれで最初からもっと嫌な奴として登場させておけば良いのに、中途半端な描き方で"こいつ憎たらしい"という感情も沸いてこない。
他にもいくつか脚本上のミスがある。
一番大きいのがタイムキーパー。ウィルが逃げるのを追う警察のような役目なわけだが、どうも間抜けなのだ。何度も後一歩のところまで追い詰めるのだが、直ぐに逃げられてしまう。「ボーン・アルティメイタム」のような手に汗握る緊迫感はゼロ。映画の後半はチェース・シーンが大半を占めるだけにそこが弱いと作品としての評価は下がらざるを得ない。
さらに残り時間を示す表現が弱い。いちいち腕を見ないと残り時間がわからないため、こちらも緊迫感が伝わりにくい。例えばシンプルだが、残り時間が1分をきったら音声によるカウントダウンが始まるとか、体の色が変わり始めるとか映像や音声の見た目でわかる設定にしておけば、良かったのに・・・と感じた。
そして2人は銀行を襲撃して時間を強奪するのだが、警備員が1人もいない。タイム・キーパーはいるが、一般的な犯罪を取り締まる警察のような存在がいないという意味不明な設定になっている。
そして最終的に2人は富裕層から時間を強奪して、貧民層に配るというヒーローになるのだが、個人的には強奪して再分配するのではなく、時間を管理しているシステムそのものを破壊し、すべての人間に寿命が訪れるという結末のほうが良かったのではないだろうか?などとも考えさせられた。そうするともちろん続編は作れないので、あえてそうしなかったとも考えられる(終わり方を見ると続編の可能性もある終わり方だった・・・)。
なんだかんだ書いてきたが、通貨=時間という設定変更をしただけで、10%のお金持ちが世界の90%の富を独占するとも言われる現在の資本主義社会の現状をここまで如実に表したこの作品はやはり面白い。
中でもウィルと母親が走り合って、あと一歩というところで死んでしまうシーンをラストに同じ演出で持ってきた点は妙に感動させられた。ウィルの行動の原点ともいうべきシーンを再びラストに持ってくるというハリウッドの王道とも言うべき演出には素直に感動でした。