アフタースクール |
以前見て、非常に面白かった「キサラギ」の再来とも評され、評判が非常に良かったため、見た作品。
中学校で教師をしている神野と、サラリーマンの木村は中学時代からの親友同士。産気づいた木村の妻を病院まで送っていったのは、仕事で忙しい木村ではなく、神野だった。
そして部活のために登校した神野のもとに、同級生だという探偵が訪ねてくる。島崎と名乗る探偵は、若い女性と親しげにしている木村の写真を神野に見せる。そしてそのまま、探偵の言うがままに、木村の行方捜しを手伝うことになってしまう。
「アフタースクール」というタイトル、直訳すれば"放課後"だが、映画の内容的には"学校卒業後"というのが正しい。そしてそういう意味においては、この作品にこれ以上適したタイトルはない。
そして物語後半の畳み掛けるような展開はここ数年の映画の中でもトップレベルである。
「シックス・センス」や「ソードフィッシュ」、あるいは邦画なら「ga@me.」や「キサラギ」、あるいは最近だと「容疑者Xの献身」を見終わった時の爽快感に似ている。
ただし予算の問題上というか、ストーリーの性質上というか、こじんまりまとまってしまった感は否めない。しいて言うなら、華やかさや派手さはないが、秀作だと感じる作品とでも言えば良いだろうか?上述した作品群の中で言えば「キサラギ」の色にもっとも近い本作だが、残念ながら「キサラギ」ほどの興奮はない。
物語後半の展開は非常に素晴らしく、文句のつけようがないのだが、いかんせんそこにいたるまでの過程がやや長すぎる。「シックス・センス」や「容疑者Xの献身」に見られるような、途中のスローな展開すら吹き飛ばすほどの結末があればいいのだが、そこまで斬新な結末ではないし、かといって「ga@me.」や「キサラギ」ほど最初から最後までどんでん返しが何度も繰り返されるわけでもない。
後半だけの展開を見ればほぼ満点なのだが、映画全体を通して見ると、やや物足りない。それでも年間トップ10には入りうる作品であることは間違いない。
上記でやや批判的になってしまったが、後半の展開だけに注目して書けば、これ以上ないくらいに素晴らしい作品である。
作品全体を通してみると、かなりゆったりしていて、畳み掛けるようなスピーディーさははない。前半のいたるところに伏線を散りばめておき、物語が佳境に入ると、伏線の効果が徐々に徐々に出てきて、小さな伏線の積み重ねが大きな謎の回答へとつながる。
もしかするとシャーロック・ホームズや金田一などのように、ゆったりした展開から最後に探偵が一つのきっかけですべての謎を解明してくれる作品が好きな人には、自分が感じた以上に面白い作品なのかもしれない。
そうした謎解き作品として見た場合、この作品の素晴らしいところは人間の錯覚を利用している点だろう。
例えば、男と女が手をつないで歩いているとする。たいていの人間は2人は恋人だという推測をしてしまう。こういった錯覚を利用したトリックがこの作品にはいっぱいある。それがこの作品の一番の見せ場でもあり、自分の錯覚あるいは勘違いによって、自分の中で勝手に物語を難しくしているだけだということに後半気づかされるのだ。
中でも自分が気に入った伏線とその回答は、謎の政治家(立候補者)の末路と、木村と謎の女のエレベーターへ乗る前の映像とその音声。特に後者は映像と音声を切り離すだけでここまで面白いものに仕上がるという小説ではできない映像メディアならではの見せ方で非常に面白かった。
ところで、作品前半で提示された謎は最後に向けて綺麗にすべて解かれていくのだが、一つだけ解けなかった謎がある。居酒屋の壁に貼ってあるメニューの"羊脳印度カリー"。このシーンだけは、単純にこの文字を映したいだけだったとしか思えないほどの変なアングルだった。そしてやっぱり、その後のストーリー展開に何の影響も与えなかった・・・。誰かこの謎のメニューを見せてくれーーー!
変なといえば、探偵の隠れ家のTVの横においてある招き猫も、TVなどにはライトが当たっていないにも関わらず、招き猫だけにライトを当てていたのも気になった。そしてこちらもやはり、後のストーリーに何ら影響を与えることなく終わってしまった。
これは謎でもなんでもなく、ただ単に不気味な雰囲気を与えたかったのとミスリーディングとしての要素だろう。
あと一つ一つのカットが無駄に長い点も気になった。
映画の展開がスローなので、シーンごとに余韻を残したいのだろうが、あまりにも長い。例えば、画面から人が消えて風景だけが写されるシーンがあるとする。普通なら長くても3秒くらいで次のシーンへと移るのだが、この作品は5秒くらいあるのではないか?と思ったシーンがいくつもあった。
というわけで意味のないアングル(印度カリーのシーン)、意味のない小道具とライティング(招き猫)、意味のない長めの編集がこの作品には結構多い。これがなければ、もっと高い点数をつけたろうし、あるいはそれが気にならないほど物語の展開がすごかったというわけでもない点を考えると、やはりそこまでの作品だったということか?
しかし、謎解きではないのだが、前半の発言をうまく後半で逆転させている点は上手かった。例えば物語前半で探偵が、神野に対して「学校の中の世界でしか物事を考えられない奴、少しは放課後のことも勉強しろ!」と罵る。
しかし、作品のクライマックスを迎えた直後、すべての謎が解き明かされ、茫然自失の状態になった探偵に対し、神野がこんな台詞を残す。
「学校がつまらないんじゃない、お前がつまらないのは、お前のせいだ」
人生、つまらないと感じる人がいるのであれば、それは自分自身がつまらない人間だからということです・・・というのがこの作品のメッセージだろうか?