亜 人 |
決して死ぬことのない人種=亜人同士の戦いという設定が単純に面白く、また監督が「踊る大捜査線」シリーズの本広克行ということで見に行った作品。
日本国家が運営する不死の新人類である亜人の研究施設に収容された永井圭。その内実は不死であることを利用して、ありとあらゆる人体実験を繰り返す施設だった。
ある日、研究施設を亜人のテロリスト・佐藤が襲い、圭も助けられる。しかし、亜人自治区の設立を求める佐藤に嫌悪感を持った圭は佐藤とは別の道を選び、山奥に1人で住む老婆に匿われながら、佐藤と国家から逃亡する日々を送る。
数日が経過する中、亜人自治区設立要望に対し、何の反応も見せない国家に対して不満を抱えた佐藤が見せしめとして、厚生労働省のビルに旅客機で突っ込むというテロが発生する。また老婆の家にも亜人である圭の存在を嗅ぎ取った人々が押し寄せ、圭は佐藤を止めるため、亜人研究施設の長である戸崎と組むことを決意する―――!!
日本のSFアクション映画でここまで興奮したのは「SP」シリーズ以来で、興奮度としては史上最高レベル!!
漫画原作ということで、ストーリー展開においては安心して見ていられる仕上がりになっているし、死なない人間同士の戦い=どうやって終わるんだろうか?と思っていたが、そこもちゃんと丁寧に対策が描かれている。しかも上映時間は109分と短めで、非常にテンポよく進んでいく。
もちろんその過程で、なぜ亜人になったのか?などの説明が省かれているなど、気になる点はあるものの、作品全体として見ると最初から最後まで緊張感を持って鑑賞できたことを考えれば、そんなに大きな欠点とは映らない。もちろん、この作品がドラマであれば、永井や佐藤、戸崎といった登場人物の背景描写などはもう少し丁寧に描く必要があるが、この作品はSF、もしくはアクション映画として楽しむ作品だと個人的には思うのでまったく問題ない・・・どころか、そういった不要な人物描写は最小限に留め、観客の想像力に委ねる手法がこの作品においては非常に上手く働いている。
また永井がユーレイと呼ぶ亜人から生まれるもう1人の守護神ともいうべき体のCG映像も綺麗に馴染んでいて、ユーレイ同士の戦いも何度か繰り広げられるが、それぞれの個体に個性があり、見ていて楽しい。特に最後の圭と佐藤の戦いにおいては単純なユーレイ同士の戦いではなく、圭とユーレイの連携プレイも絶妙で、なるほど!そういう使い方があったか!?と唸らされた。
そういった意味では原作の力=脚本が非常に良くできていて、漫画原作の実写を見て、久々に原作を読んでみたいと思わされた作品でもある。
特に死んでもすぐに復活する=リセットの設定がものすごく上手く活用されているし、またユーレイを構成する粒子が一般人には見えないという設定を活かした最終決戦における圭の亜人捕獲作戦のアイデアや、佐藤が警備で固められたある場所へ瞬間移動する方法もなるほど!と思ったが、それを瞬時に応用してしまう圭の知力にも感嘆させられた。
また、死んでもすぐに復活できる不死の亜人ならではの戦い方という意味では佐藤1人 vs SATの戦いも凄い!何度もリセットを繰り返しながら戦うという設定自体はもちろんだが、アクション映画として、アニメオタクでもある本広監督はそれを映画としてどう見せれば良いのか?というのを非常に良く分かっている。「アクション映画=細かいカットをつないでスピード感をもたらせる」というよくある演出方法だけでなく、ところどころに長回しを入れることで、1つのアクションシーンの中にも緩急をつけ、更なるスピード感UPを狙っているあたりは非常に効果的。
また個人的にはSATの隊長が「踊る大捜査線」シリーズと同じ役者というところも、一ファンとして嬉しかった。
役者陣も素晴らしい。
佐藤健も綾野剛もこの作品のためにかなり体を絞った感じが見える。エンドロールにライザップのロゴを見つけた時は、ちょっと笑ってしまったが、そういうことだろう。
またここ数年、TVCMやTVドラマから映画まで幅広い役柄をこなす川栄李奈も良い活躍を見せる。戸崎に対する忠誠心と佐藤の右腕ともいうべき田中とのバトルシーンで見せるアクションのギャップも見事。元AKBの卒業生の中ではダントツで成功しているし、すでに元AKBという肩書が不要なくらいの存在感も示している。
そして「君の膵臓をたべたい」の浜辺美波が圭の妹役で出演していたのは事前知識がなかったので、嬉しかった。しかし正直、この妹の描写は不要だったと思う。妹が存在していようが、していまいが、圭がこの作品の中でとった行動に対して大きな影響を及ぼしたわけではなく、妹との描写を描く時間を亜人の謎解きに充てるなどしても良かったのではないか?(もちろん原作で登場しているのだろうが、原作のすべての登場人物が実写映画に登場しているわけでもないだろうから、この妹も登場させる必要はなかったのではないか?)
もう1つのNGポイントとしてはHIKAKINが出演していたことだろうか。日本のTOP YouTuberとして最近ではTV CMにも出演しているが、さすがにやり過ぎ感が漂ってしまう。
TV、新聞などと並ぶマスメディアの地位を築いた存在としてのYouTuberを描きたかったのだろうが、この作品においてYouTubeの存在を描く必要性が薄いし、どうせ描くならYouTuberではなく、YouTubeそのもののメディアとしての特性を描く(例えばリアルタイムで視聴者数がわかるなど)方が重要なはず。ましてHIKAKINを出すとなると裏でいろんなバーターの話や話題作りとしてのビジネスが見えてしまい、興醒めしてしまう。
もっと言うと、作品としての質はハリウッドに持っていても楽しめるレベルのクオリティだと個人的には思うのだが、日本人以外が見た時にHIKAKIN=YouTuberとはならず、誰だこいつ!?となるのは目に見えている。いや、誰だこいつ!?となることが問題なのではなく、このメディアは何なんだ!?となる(YouTubeだとわからない)ことが問題なのだ。
個人的に気になったのは妹とHIKAKINの2点のみで、それ以外は概ね満足の行く作品だった。冒頭の繰り返しになるが、日本映画特有の長ったらしい状況説明などを思い切って省きつつ、必要最小限の説明は残し、観客の想像力に委ねた演出は本当にお見事!!で、もしかしたらこの作品前後で今後の邦画(特にアクション系)の制作の1つの方向性が変わったとなるレベルの作品だと思う。
「死=恐怖」という人間が持つ根本感情を取っ払うという設定の上で、「死を恐れる必要がない=永遠に死にもの狂いで動き続けることが可能」という画期的なアイデアによるアクション映画。今までの日本映画だと不死だからこその悩みや葛藤を描いてしまいそうだが、今作はそこを潔くバッサリ行ったことで最初から最後までダレルことなく、緊張感を持ち続けられる仕上がりになっている。
それでもいくつか印象的な台詞があることも見逃せない。個人的には2つほど強く印象に残っているのが、戸崎と圭が組んでできた対佐藤チームの一員である平沢の「祝杯をあげよう!」と、佐藤が尋ねた「亜人なのになぜ人間の味方をするのか?」に対する「亜人とか人間とかどうでもいい。俺はお前が嫌いなんだ!」という圭の答え。特に圭の答えは上述してきた"無駄を省いて必要最低限"という、この作品の作りそのものを端的に表している。
終わり方から考えると続編がありそうなので、期待したい!!