アンダルシア 女神の報復 |
前作「アマルフィ 女神の報酬」、そしてTVシリーズをはさんで製作された「外交官 黒田康作」シリーズ劇場版第2弾。
スペイン北部に隣接する小国アンドラで、日本人投資家・川島の遺体が発見される。サミット参加のためにパリを訪れていた外交官・黒田は、事態把握のためにアンドラに入り、2人の事件関係者と出会う。遺体の第一発見者であるビクトル銀行の新藤と、事件を担当するインターポールの捜査官・神足。明らかに嘘をついている新藤、そして捜査情報を隠そうとする神足の2人に黒田は疑念を抱く。
新藤を保護するためにバルセロナの日本領事館に向かった3人だったが、途中武装グループから襲撃される。川島の事件に何か裏があると確信した黒田は、国際テロ組織によるマネー・ロンダリングと投資家殺人との関係を洗い出そうとし、ビクトル銀行のブローカーがアンダルシア地方で巨額の不正融資を行なっているとの情報を得る。そして3人はアンダルシア地方に乗り込んでいく―――。
前作がフジテレビ開局50周年記念作品ということで全編イタリア・ロケという壮大な作品だったが、今作もフランス・アンドラ・スペインで撮影された壮大なスケール感を持った作品である。そしてこれまた前作同様、観光映画として素晴らしい風景を長々と映すことなく、あくまでも背景の一部として描写しているという日本映画らしからぬ贅沢なお金の使い方をしている。
例えばオープニングでしか出てこないパリのエッフェル塔や凱旋門。そしてバルセロナのサクラダファミリアは2度映るのだが、2つあわせて、5秒も映っていない。しかも最初のシーンは全景ではなく、遠くの背景に上端部分がわずかに映っているだけ。2度目もバルセロナの街の引き絵の中に映っているだけで、"これがサクラダファミリアです!"的な絵は1度も登場しない・・・。
そしてまた前作同様、例外的に長々と映すのが、作品タイトルにもなっているアンダルシア地方への場面転換のシーン(前作はアマルフィ海岸)。それまでにパリやバルセロナといった世界的観光名所があったにも関わらず、上述したようにわずかしか映されず、あくまで背景に徹していたこれら世界的観光地が、アンダルシアに場所を移した途端にその壮大なスケール感を全面に押し出し、スペインにこんな崖の上に建つお城があるのか!?アンダルシアとはこんなにも素敵な街なのか!?と驚かされると同時にいつか行ってみたいと思わされた。
そして前作ではクレジットにも表記されていないことからわかるように、破綻気味だった脚本も今回はクレジットにも表記されており、持ち直した感じがある。
前作は前半と後半でかなり落差のあった脚本になっており、後半に行くにつれて、物語が破綻していくという珍しい作品だったが、今回は全編を通して安定感があった。中でも前作、TVドラマを通して"完全無欠"という言葉がピッタリだった黒田に、今作では"人間臭さ"が加味され、サスペンス映画でありながら、人間ドラマも楽しめる。
例えば新藤とワインを飲み交わし、睡眠薬で眠らされるシーンはその典型だし、ポーカーが鬼のように強かったはずなのに、どこか女性に勝たせて上げよう的な雰囲気を醸し出したり、感情移入しやすいヒーローになった。
が、黒田がそんな一面を見せる女性としての新藤のキャスティングという意味では黒木メイサはミスキャストだった。まず、スペインで1、2を争う銀行のマネー・ロンダリングを実行する役柄としては若すぎる。そして何よりも男が人間味を見せる相手としては、女性としての色気がない。非常に綺麗だし、格好良い女性だとは思うのだが、男が人間味や包容力を見せる女性像ではない。
一方で"完全無欠"の黒田も残っていて、そこはやはりというか、相変わらず素晴らしいの一言に尽きる。特にオープニング。パリで一番美味しいカフェに日米の財務長官を偶然を装い鉢合わせさせながら、黒田自身は影に徹し、さらにそれが見事にエンディングにもリンクしていて、米財務長官の言葉がすべて黒田の画策通り(川島の事件事態も、偶然この時期に起きたのではなく、このサミットを見越しての黒田の引き金)だとしたら、世界一の策略家です。
アマルフィでは観光客の女性、TVドラマでは新人女性刑事だった黒田の隣にいる人間が、今回はマネーロンダリングのプロとインターポールの刑事という黒田と同じその道のプロになったことで、より一層黒田の"完全無欠"さが際立つと共に、それを際立たせるための要素としての"人間臭さ"を持ち込んだのではないだろうか?
"人間臭さ"という点から言えば、神足と新藤の2人もそうだ。
新藤に関して言えば、過去に日本の警察で内部告発をしたという過去を引きずり、かつ実践で銃を撃ったことがなく、武装グループに襲われた際に、その脆さを見せる。しかしこれがクライマックスに続く伏線となっている点など、前作にはなかった脚本の上手さだ。
一方の新藤も両親と妹をなくした交通事故のことを引きずり、車の窓を開けたがらない理由が神足と同じくクライマックスに続く伏線となっていて、前作とは脚本のレベルの違いを見せ付ける。またこの神足と新藤の2人の駆け引きという観点においては、ルーカスという容疑者の外見をインターポールの取調室で伝える新藤が「ユージュアル・サスペクツ」へのオマージュとなっており、非常に面白い。
そしてアクションとしての見せ場も、3者によるカー・チェイスが描かれていて、楽しめる。逃げる新藤、追うインターポール、さらにそれを追う黒田。しかも舞台はバルセロナ。
邦画でありながら、海外でカー・チェイスを描いているだけでなく、CGではなく、実際に車をつぶしてしまう作品が見られるだけでも楽しめる。
しかし、"前作より"は良くなった、あるいは"邦画として"は凄かったという話であって、まだまだ改善の余地は多い。例えば冒頭のスキーでの自殺未遂シーン。はっきりいって不要。絵的に綺麗という以外、必然性はゼロである。
そして何よりサスペンスとしては"中の下"レベル。犯人が簡単に予想できてしまい、二転三転はなく、一転までだ。ハリウッドのサスペンス映画であれば、少なくとも二転、秀逸な作品であれば、三転まで用意されており、謎解き後、見終わった後の爽快感はすさまじいものがあるが、この作品に関して言えば、爽快感は10段階で2か3だ。
とはいえ、"邦画として"は日本版「007」、あるいは「ミッション・インポッシブル」を狙える可能性を秘めた唯一の作品なだけに、今後も続編が続いて欲しいと切に願う。
最後に次の赴任地がドバイって言っていたことだし、織田裕二もあの世界一の高層ビルに登るのだろうか?いや絶対にないな・・・。