名探偵コナン 天空の難破船
採点:★★★★★★★☆☆☆
2010年11月25(DVD)
原作:青山 剛昌
監督:山本 泰一郎

シリーズ第14弾、そして久々に怪盗キッドが本筋に絡む話ということで、楽しみにしていた作品。

国立東京微生物研究所が7人組のテロリスト"赤いシャムネコ"に襲撃され、殺人バクテリアが奪い去られてしまう。
一方、園子の叔父、鈴木次郎吉は、「世界最大級の飛行船に収めた天空の貴婦人(レディー・スカイ)を盗んでみせろと」怪盗キッドに挑戦状を叩きつける。制限時間は東京を出発から大阪に到着するまでの6時間。キッドからもいつも通りに挑戦を受けたとの返事が届く・・・。
そして当日、飛び立った飛行船の中で"赤いシャムネコ"が持ち去ったはずの殺人バクテリアが散布され、飛行船もハイジャックされてしまう―――。

毎回キッドが登場すると物語が派手になって楽しませてくれる。劇場版コナンに推理のみを期待する人からすれば、キッドの登場は喜ばしくないかもしれないが、個人的にはアクション中心の劇場版コナンも好きなので、キッドの登場は大喜びである。
というわけで今回はあっと驚くような犯人当ての推理はそんなに深くはない。というか今回は誰一人登場人物が死なないため、殺人犯を当てるというプロセスそのものがない。その代わりにハイジャック犯は誰で、その動機が何か?を推理するのが、推理面での中心になる。
一方のアクションに関してはキッドの登場ということで、キッドが登場しない映画では見られない派手なアクション満載である。キッドの最大の見せ場とも言うべき、コナンを救う場面。一旦、雲に隠れてからハングライダーとともに登場させるあたりの演出が非常に上手い。TVでは普通に空中でパッと変身するのだが、さすが映画版。細かいところもこだわっている。
そしてキッドの活躍に奮起したのか、コナンも今まで以上のアクションを見せる。スケボーで飛行船内を走り回り、犯人達を一人ずつ確実に葬り去っていく。さらに今回は博士のアイテムがフル稼働。スケボー以外にも、変声器、ベルトから出されるサッカーボール、伸縮サスペンダー、麻酔銃・・・。今までの劇場版の中でも最も多いのではないか?しかも今回はどの発明品も壊れない(いつもどこかで壊れたり、充電が切れたり、修理中だったりするのだが・・・)。

そしてもう1つ。今作が今までの劇場版の中で最も多いのが、ラブコメ要素。
例えば灰原が柄にもなく乙女チックな発言をする場面は、かなり笑わせてくれるし、蘭の新一に対する思いも最初から最後まで全快である。そこに絡むのもキッド。正体がばれそうになり、キッド=新一の仮の姿という嘘で蘭もだましてしまう。それをエンドロール後の最後の最後で、いかにもキッドらしいキザな演出で正体をばらすと同時に天空の貴婦人を返す演出も上手い。
この監督、キッドの使い方をわかっていると妙に関心させられた今作。一方で今までにない"非"完璧なコメディ・タッチのキッドの描写も、この作品の"笑い"の要素を増やしている。ヤギと戯れるシーンなどは本筋にはまったくもって関係ないのだが、思わずニヤリとさせられてしまう。

とこれだけならもっと良い点をつけたかったのだが、マイナス要素がいくつかある。ここ最近の劇場版コナンで増えてきた素人の吹き替え。前作のDAIGOほどひどくはなかったが、その他大勢の子供達の台詞を素人の子供たちをアフレコに使うのは興醒めしてしまうので、そろそろ止めて欲しいが、子供向けアニメという前提上、そこは永遠の課題なのだろう。服部と一緒に登場した子供の吹き替えについては、一応本筋に絡むのでしっかりとした声優さんを使って欲しかった。というか、その子供のキャラ自体、特に必要なかったのでは?とすら思う。
逆に優木まおみと大橋のぞみの2人の吹き替えは全く違和感がなく、エンドロールを見るまで全く気づかなかった。

2つ目のマイナスは音楽。今までの作品とアレンジが変わっているのと、この場面でこの音楽?というミスマッチなシーンが2つあり、そこでまた違和感を感じてしまった。アレンジが変わるのは時代の流れとともに変わっていくという意味ではありだが、映像とマッチしていない音楽というのは、いつの時代も関係なくマイナスでしかありえない。

そして3つ目にして最大のマイナス要因。犯行の動機がしょぼい。「アマルフィ 女神の報酬」もそうだったのだが、犯人の動機がストーリーのスケール感に合っていないほどエンディングの虚脱感が虚しいことはない。
飛行船・殺人バクテリア・宝石泥棒と要素としてはかなり大掛かりな仕掛けになっているにも関わらず、そこまで仕込んでおいて、最終的な犯人の狙いがこれかよ!?という虚脱感。他にいくらでも目的を変えられる設定だっただけに非常に残念。

とはいえ、全体を通して見ると殺人バクテリアによるパニック・サスペンス映画としての要素、キッドによるアクション映画としての要素、そしてコナンによる犯人当てのミステリー映画としての要素、これらをテンポ良く展開していくという意味ではかなり完成度の高い作品と言えます。犯行の動機さえ、きちんとしていればより高得点をつけただけに、その点だけは残念ですが・・・。

一口コメント:
怪盗キッドが絡み、アクション映画としての要素が高くなり、ここ数年の劇場版シリーズでは完成度の高い作品になっている。

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