名探偵コナン ゼロの執行人 |
6年連続となる劇場版コナン・シリーズの歴代興行収入塗り替え、更には「劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」に次ぎ、2018年邦画興行収入ランキング第2位を獲得した作品。
大型無人探査機「はくちょう」の地球帰還が迫った頃、東京サミットが開催される東京湾の新施設、エッジ・オブ・オーシャンで爆破事件が起こる。サミット前に爆破事件が起きたことに疑念を持ったコナンが捜査を始めた矢先に、毛利小五郎が爆破事件の容疑者として逮捕されてしまう!!
橘境子という女性弁護士が小五郎の弁護を担当することになるが、公安事件を数多く担当してきたものの、過去の裁判で全敗していることを聞いて不安に駆られるコナン達。しかし検察内部でもこの事件を巡って対立が起きており、そこに警視庁の公安部の人間である安室透が様々な策をめぐらせる。
そしてコナンはIoTテロの可能性に気づくのだが、時すでに遅し、都内各地でIoTテロによる爆破が相次いでしまう・・・!!
あと少しスパイスが足りないな・・・と思うのと同時に、この場面でこのセリフ言うようなキャラだったっけ、コナンって?という危うさも感じた作品。
この作品はコナンvs安室という対比構造になっていて、それは「真実を暴く者 vs. 正義を貫く者」というキャッチコピーにも表されている。真実を暴くのはもちろん探偵であるコナンであり、正義を貫くのはスパイとも言うべき公安の安室。ただし正義は公安、いや安室の信じる正義であり、コナンの信じる正義とは異なる部分が少なくない。
その典型的なシーンが小五郎の逮捕、送検の一連の流れ。"正義のためであれば、多少の犠牲はやむを得ない"的な、日本の刑事ものや弁護士もののドラマでは必ずと言って良いほど描かれる内容を、安室は本気のコナンを引き出すために、証拠を捏造し、一般人である小五郎を犠牲にしているのだが、コナンは蘭が悲しむ姿を見て、激しく抵抗していた。それなのに、最後の最後、すべての謎が解明され、安室の口から"正義"ではなく、"真実"が語られた際のコナンの「買い被り過ぎだよ」の台詞は、いったい何だったんだろう!?
コナンの協力を得るために小五郎を逮捕させた安室。これは"法を犯さないという理想だけでは悪を捌けない"という自身の正義を持っている安室だから脚本上は全く問題ない。実際それでコナンの協力を得られたわけだから・・・。ただしコナンの協力が無くても、安室単独の力でも謎は解けたのではないか?という疑念も少しある・・・。IoTテロの可能性も見抜いていたわけだし・・・。
それに対し、小五郎が連行されるシーンであんなに激しく抵抗し、物語の途中で「そんなのは正義じゃない!」とまで言っていたコナンが、ある意味で自分が持ち上げられたことで満足し、証拠を捏造してまで一般人を巻き込んだ公安に対してあんなにあっさりと引き下がるとは・・・。殺人はもちろんだが、違法捜査や誤認逮捕に対して基本反対の立場で、ましてや恋人である蘭の父親が誤認逮捕されているわけだから、「買い被り過ぎだよ」以外に安室に返すべき台詞があったのではないだろうか?
とはいえ、その直後反対方向に向かって歩いていく二人の描写がそれ以上を物語っているとも取れなくもない。安室が取った手段が単純な善悪で割り切れないものだということをコナンもわかっているからこその「買い被り過ぎだよ」という台詞につながったとも取れるのだ。
コナンvs安室以外に、警視庁の公安 vs 検察庁の公安という国家権力同士の争いという今までのコナン作品にはない濃いバックグランドがこの作品の質を高めていることも書いておかなければいけない。
「異次元の狙撃手」ももちろんFBIが登場し、濃いバックグランドになっているのだが、FBIという組織の特性上派手な銃撃戦が前面に出てきたのだが、今回は公安という、基本的には表には出てはいけない裏組織ということで、近年恒例となっている爆発やアニメだからこそ許されるトンデモアクション(今回は安室の超絶ドライブテクニックがこれにあたる)、そしてラストのコナンx博士のメカによる(たいていはサッカーボール)エンディングを除いたストーリー上は表立った派手なシーンはなく、裏であるが故の工作に重きを置いたストーリー展開となっている。
互いに盗聴されていることを分かっていながらの心理的な駆け引きなどは公安ならではの展開と言える。
そして公安の"協力者"という人間関係が実はこの作品の裏テーマになっているところも面白い。コナンが安室の、安室がコナンの協力者であることは言うまでもないが、灰原がある人物に「君たちは一体!?」と聞かれ、"友達"でも"仲間"でもなく、「小さな探偵さんの協力者ってところかしら!」と答えるシーンは短い台詞の中に公安がテーマの今作品の裏テーマが端的に表現されていて、違う意味で微笑んでしまった。
とまぁ、ここまでは良いところを書いてきたが、残念な点も今作品は多かった。
まずは小五郎の弁護人を務めた若い女性弁護士。声優を上戸彩が務めているのだが、演技がいまいちな女優は声優でもいまいち・・・というのも問題なのだが、それ以上に問題なのが、第一印象が怪しい人物が最後の最後で善人にならずに、最後まで怪しいままというひねりのない設定。そこは良い意味で裏切ってくれよ!と思わずにはいられなかった。
また開催1週間前にサミット会場で爆破事故が起きたにも関わらず、別会場で予定通りサミットを開催するという設定もどうなんだろう?通常なら中止、最悪でも延期になるはず。ましてや開催1週間前にインターネット環境が整うという会場でサミットが開催されるというのもあり得ない。
カーチェイスや博士のトンデモメカは、アニメの世界で割り切って楽しめるのだが、現実世界にリンクするような設定の部分はリアルに描いてほしかった・・・。
そしてせっかく公安という良い意味で締まる組織を描いているのにNAZUという某国の宇宙関連機関をパクった組織の探査機も残念。一度いたずらで侵入された経緯があり、対策ソフトを完成させているにもかかわらず、再度システムに侵入され、パスワードを書き換えられるという設定は残念。それであれば一度侵入されたという経緯はなくしておいた方がまだましだった。その場合、IoTテロの部分のストーリー展開を修正する必要が出てくるが、IoTテロ自体がそもそも他にいくらでも代替手段があっただけに、残念で仕方がない。
そして公安という組織を引き出しておきながら、落下してくるカプセルの軌道修正に少年探偵団を使うという設定も残念。目暮警部が出てくるレベルの作品ならまだしも、公安が出てきて、しかもストーリーに直結するような形で活動をしているところに少年探偵団が事件解決に絡むというのはさすがにない。コナン作品だからと言えばそれまでなのだが、せっかく公安という組織の登場で引き締まった作品が少年探偵団の登場でぼやけてしまうのはもったいない。正直、少年探偵団である必要性はゼロだし、どうせトンデモ!?設定にするなら、公安から政府へ手を回して迎撃ミサイルを発射するくらいの設定にしてほしかった・・・とも思う、笑。正直、少年探偵団を出さずに公安からの秘密任務を阿笠博士が直接受けるなりで良かったのではないか?という思いもある・・・。
天空を車で走り抜けるラストシーンは「天国へのカウントダウン」をオマージュしているのか?台詞は今作のタイトルにもちなんで「3、2、1・・・ゼロ」なんてカウントダウンもしているし・・・、なんて過去作との関連性を探すことができたりして、中だるみすることも詰め込み過ぎることもなく、最初から最後まで見られたという意味では良作だったのではないかと思う。
犯人の動機についても近年のような薄っぺらさはなく、過去の回想も上手く活用して、犯人が犯行に至るまでの心情も描かれていて、そういう意味でも良作だったと思う。
その一方でアニメならではのトンデモ設定と現実世界のリアルが上手く融合できていない部分が解消されれば、より一層の高みを見ることができたという意味では残念な作品でもある。