隠し砦の三悪人
THE LAST PRINCESS
採点:★★★★★★☆☆☆☆
2008年11月2日(試写会)
主演:松本 潤、長澤 まさみ、阿部 寛
監督:樋口 真嗣

椿三十郎」に続く、黒澤作品リメイク第2弾。

山名国に攻め込まれ、陥落した秋月国の城では、軍資金の黄金と世継ぎである雪姫の行方が不明となっていた。その秋月の城で爆発が起こり、そこから逃げ出した武蔵と新八は、偶然、秋月の隠し金を見つけるが、そこに現れた六郎太と名のる男とその弟に捕えられ、金も奪われてしまう。そこで秋月の同盟国・早川へ黄金を持ち出そうと企む六郎太に、武蔵は敢えて敵国の山名を通過するように進言する。武蔵の進言を聞き入れ、一行は山名国へと入る。そこで待ち構えていたのは裕福な秋月では想像もできない貧国、山名の民のあまりにも悲惨な現状だった―――。

黒澤リメイクということ、そしてジャニーズ主演ということもあり、公開前から随分と盛り上がっていたが、いざ公開されるとまさかの低速スタート。そしてそのまま加速することなく、失速してしまった―――、というわけで、ほとんど期待していなかったこともあり、思っていた以上に楽しめた。

阿部寛演じる六郎太、長澤まさみ演じる雪姫が変装した六郎太の弟に関しても、予想以上の演技を見ることができた。
阿部寛は現代人の中で、黒澤・三船時代の人たちをも満足させることができる唯一の武人ではないか?とすら思えてしまうほど骨太な演技を見せてくれた。
一方の長澤も今までの優等生の可愛い女の子、あるいは悲劇のヒロイン、とはまったく違う演技を見せてくれる。声を落とした男性としての演技はぜひ「フレフレ少女」で、ぜんぜん男っぽく見えない応援団長を演じた新垣結衣に見せてあげたい。

しかし話が進むにつれて、六郎太の存在は薄くなり、武蔵が"六郎太の弟"を"雪姫"へと変化させていくに従って、民を愛し、心の中で葛藤する姫・・・、といういつもの長澤まさみになっていく。1本の作品の中で2人の長澤を楽しめるという意味では面白いのだが、それはあくまで長澤ファンにとっての話。それ以外の人にとっては、ちょっと物足りない。これが恋愛映画で恋愛の過程をじっくりと描きこんだ上で、彼女が一人の女性として変化するのであれば良いのだが、この作品はそれがないから。というわけで、1つの映画として見た場合、キャラクター設定が弱くなってしまう感は否めない。

新八を演じた宮川大輔は、最近TVドラマに出まくっているし、演技も上手いのだが、この作品に関しては、個人的には?だ。
というのも"笑いのプロ"に"笑いの演技"を求めているだけだから。せっかくの映画なので、普段のバラエティー番組では見られない、TVドラマで演じているようなシリアスな役どころや悪者といった役どころを演じてもらいたかった。それだけの演技力は持っていると思うので・・・。

話の展開としては、クライマックスに向けて、どんどん地味になっていく。
一国の姫を無事に逃がすために国内最強の武人を伴わせた逃避行から始まるのだが、最後はただの平民が敵と戦うことなく、ただひたすら逃げるだけ。その逃げる最中に再び爆破が起きたり、武人が敵の大将と戦ったりしているのだが、本質は敵を倒すのではなく、ただ逃げているだけ。
そこがどうもこの作品にもう一歩踏み込んで見れなかった理由かもしれない。"一国の姫を助ける"という話であれば、基本的には逃亡劇ではなく、救出劇にするのがセオリーである。
一度捕らえられた姫を救い出しているという意味では、救出劇なのだが、主人公が平民であり、武人が自ら戦った上での救出ではない。戦国時代を描いた作品ではなく、現代劇であれば問題ないのだが、この手の時代劇的作品においては、よほど作品にひねりがないと物語への引き込みが弱い。そしてこの作品はそこが弱かった。
だから武蔵ではなく、六郎太を主人公とした目線のストーリーにした方が面白くなっていたのではないだろうか?個人的にはそっちを見て見たい。(オリジナルの作品はどうなっているのだろう?)

それとエンディングにラップ調の曲がかかるのは現代版"リボーン"ってことで大目に見るとしても、黒澤作品の"リメイク"であれ、"リボーン"であれ、ひとつだけ解せない点がある。いや黒澤作品どうこうではなく、戦国時代を主題にした作品として解せないと言うべきか?
それは武蔵が雪姫に対して「ユキ、俺と逃げよう!」というシーン。いくら現代風に"リボーン"したとはいえ、さすがに戦国時代の普通の平民が一国の姫に対してユキと呼び捨てにするのはどうだろう?(そこまで二人が親密になっていく過程もまったく描かれていないし・・・)当時の日本人の価値観からすると、あり得ない台詞ではないか?いや現代の日本においても、皇族の人間を呼び捨てにできる人は少ないのではないか?
しかも2人で逃げようなんて、どこに逃げるんだよ!?「時は戦国」のはずだろ?と思わず、心の中で突っ込んでしまった。

ところで、今回の作品と「椿三十郎」が果たした役割は大きい。
「黒澤作品を汚すな!」という声が聞こえてきそうだが、名作がリメイクされるのは時代の常であり、今がそのピークとも言える時かもしれない。ましてやハリウッドで「七人の侍」がリメイクされることも決まっているのだから、黒沢のリメイクを止めろ!というのはある意味、時代に逆行する行為と言えるかもしれない。
そもそも、黒澤作品を愛している人たちなら、なおさらだ。このリメイクがなければ、オリジナルを見たことのない若い世代の大半は一度も黒澤作品を見ることなく、時間が過ぎていくところを、オリジナルを見るためのきっかけをくれたわけだ。
ましてや、この作品はスタッフが言っているように"リメイク"ではなく、"リボーン"なのだから(苦笑)、黒澤作品とは別物である。もっと良く言えば黒澤作品を宣伝するためのまったくの別映画である。

名作というのは時代を超えて後世へと語り継がれていくものであり、黒澤作品を名作だと思っている人なら、この作品を後世へつないでいくための作業を手伝ってくれたとは考えられないだろうか?いやそう考えて欲しいと思う。

一口コメント:
自称"リボーン"ということで、"リメイク"とは違った意味、違った世界で楽しませてもらいました。

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