シン・ゴジラ
採点:★★★★★★★★★☆
2016年9月18日(映画館)
主演:長谷川 博己 竹野内 豊、石原 さとみ
監督:樋口 真嗣
総監督:庵野 秀明

エヴァンゲリヲン」シリーズの庵野監督が手掛けるゴジラということで、製作決定時から何かと話題になっていた作品。公開後のレビューもかなり評判が良く、見に行った作品。

東京湾アクア・トンネルが崩落する事故が発生。内閣官房副長官・矢口は、未知の生物が事故を起こした可能性を指摘するが、一笑に伏されてしまう。しかし直後にネット上に巨大生物の映像が続々とUPされ、遂には東京の街に上陸してしまう!!

エヴァ色満載のゴジラ!
「そんな短時間で読めるわけないだろ!」なテロップの出し方だったり(文字のフォントそのものも・・・)、電線をロー・アングルで撮影したり、自衛隊の武器使用時の見せ方といったカメラ・アングルだったり、会議室を机の脚越しに見せたり、避難勧告後に高速道路がバスで大渋滞するカット割りだったり、どこかで聞いたことのあるような「ヤシオリ作戦」という作戦名だったり・・・。エヴァを見たことがある人なら「おぉっ!」となるような演出が随所にみられる。極めつけは会議の際のBGM。まんまじゃん!
踊る大捜査線」でもおなじみのあの曲がまさかゴジラで聞けるとは・・・。

そもそもゴジラが背中から放つ放射熱線はエヴァの紫色だし、最も進化した完全体と称される辺りは使徒っぽい。そして3.11の心の傷が消えない状態の日本にゴジラが襲来する=サード・インパクト(エヴァンゲリヲンにおいて世界を一変させた事件、それ以来、地球の海の色は赤くなる)を彷彿とさせる。その証拠にゴジラが初めて登場した際の海の色も赤だった・・・。

・・・なんて、エヴァンゲリヲンを見ていない人にはわかりにくいことばかり書いてきたが、エヴァンゲリヲンを見ていない人でも十分に楽しめる作品だと思う。
まずはオープニング。「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズ以来、久しぶりに東宝の古いオープニングを楽しむことができる。
そして何より、ゴジラの登場シーンが秀逸。ハリウッドのギャレス・エドワーズ版「GODZILLA ゴジラ」の登場も非常に秀逸だったのだが、今作も負けてない。
まずはアクアラインが崩壊し、重量感のある赤い液体が落下してくる。そして東京湾に赤い液体が広がる。続いて川の中に歩みを進め、背ビレのみが見える・・・と、見えない状態で緊張感を高めていく。続いて陸上に上がったと思ったら、「あれ?想像してたのと違う!?」と一端緊張感を緩める・・・と、安心したところで進化を始め、再び緊張感を高める。いったんは海に戻るが、その静けさが逆に不気味さを煽る・・・といった一連の流れがゴジラが持つ"怖さ"を見事なまでに伝えてくれる。

またゴジラが現れてアタフタする首相官邸の描写もリアル。自分の意見がなく周囲に意見を求めるだけの首相、そして「想定外!」を連呼する官僚など、3.11当時の日本はこんな感じだったのだろうと妙にリアルな納得感がある。

また国連安保理が下した核使用の決定も非常にリアル。地球は1つという概念が普通になった昨今ではどこか1か国の問題であっても、世界中の国が手を取り合って解決するという状況が反映されている。その際の国同士の駆け引きというのも丁寧に描かれている。さらにそれを「日本にとって3度目の核」という台詞を用いることで、核使用という事態が日本国民にとっていかに大きな問題か?ということを痛いくらいに伝えている。
それに伴い、戦後初の自衛隊の防衛出動という大事とその背景で交わされる永田町の決断プロセスはとても面白い。ゴジラという危急の事態が発生しているにも関わらず、法律改正や許可申請、諸外国への根回しなど、ゴジラへの攻撃はどんどん遅れていき、最終的には「初動対応が上手く行かなかった」なんて台詞まで登場し、皮肉な笑いを提供してくれる。
これがハリウッド映画であれば、大統領の一言でゴジラ攻撃が決行されているだろうと考えると、どちらが良いのだろうか?と考えさせられてしまう。これについても米国の官僚が言う台詞が強烈なメッセージを残す。「私の国は大統領が決める!あなたの国は誰が決めるの?」と・・・。
日米の対比ということでもう1つ。「東京で核を・・・?」と躊躇する日本に対して、「アメリカはニューヨークであっても核を使う」という台詞。1都市を優先するのか?国を優先するのか?その微妙な問題なのだが、政治と経済が東京に集中する日本と、政治=ワシントンDC、経済=ニューヨークと分かれているアメリカの違いとも言えるのかもしれない。
そういった意味で政治映画としても楽しめる。

またこうしたパニック系映画の場合、ハリウッド映画であれば1人、あるいは少数のスーパーヒーローが登場し、問題を解決するのだろうが、ゴジラは日本映画・・・だからスーパーヒーローは登場しない。その代わりに良い意味でも悪い意味でも「和」を大切にし、「和」を持って解決する。各分野の専門家が力を結集し、何とか解決策を見出すも時間が足りず、官僚が外国を含む関係各所に調整を図る。1人で解決できない問題であっても、皆で力を合わせて解決する。「3本の矢」的発想が根付いている。
それが端的に現れたのが、ゴジラが放つ光線によって総理を含む高級官僚が一斉に死んでしまったところで用いられる「次のリーダーがすぐに決まるのがこの国の強みだな」という台詞。皮肉も込められているのだが、取りようによってはトップが変わっても組織として変わらない運営を維持できる=個ではなく、和を持って臨むという事実を示した名言だと思う。

ゴジラを倒した後、ハリウッド映画であれば全員が両手をあげて歓喜に沸いたであろうシーンも、今作ではほっと胸をなでおろす描写にとどまったあたりもリアルだった。
そして最後の最後、「スクラップ・アンド・ビルドで日本は強くなってきた」という台詞が、強く心に残った。周囲のしがらみが強すぎて、身動きが取りにくいのが現状の日本であり、今作で総理を乗せたヘリが墜落し(=スクラップ)、その後残された若手官僚たちを中心にゴジラを倒す(=ビルド)。実は今作に込められた最大のメッセージがこのセリフに込められていたのではないだろうか?と思わずにはいられなかった。

・・・といった感じで、ハリウッド版ゴジラと比べても全く遜色のない出来映えなのだが、さすがにCGのレベルに関しては改めてハリウッドの完成度の高さが際立つ結果となった。夜ではなく、昼間に登場させたことは素晴らしいのだが、やはり粗が目立った。引きの絵で建物が破壊されたり、初上陸の際にボートや車が押し出されるシーンなどは凝っているのだが、2度目の上陸以降は手前にある民家はそのままでゴジラが歩いていく。一瞬屋根瓦が振動する描写が入るのだが、前半のような圧倒的な破壊描写はクライマックスの東京駅まで影をひそめてしまう。予算がなかったのか、中だるみしてしまったのか?CGレベルが「冒頭=高い」⇒「中盤=中だるみ」⇒「終盤=高い」と作品の中で上下してしまうあたりはまだまだハリウッド映画には及ばない。
またゴジラが倒れたところにポンプ車が待っていたかのように描かれているのだが、そんな都合よく行くか?という描写も後半にかけて増えてくる。前半かなりディテールにこだわって描いていたのだが、やや残念な感じが残った。
とはいえ、新幹線や在来線が爆弾積んでゴジラに突っ込んでいく描写などは下手に自衛隊の戦闘機が突っ込むよりも日本ぽくて良かった。

最後の最後、ゴジラのしっぽが映し出された時に使徒らしき人型が見える。これが今回の事件の張本人ともいうべき科学者なのだろうが、続編があるのだろうか?と思わせる終わり方で、見終わった後もドキドキが持続する素晴らしい終わり方だった。
ただし、海外でも知名度が高く、既に数十か国での公開が決まっている=日本の情けない政府首脳が海外に広まってしまい、海外の人がそれをどう受け取るのか?ということが、気になる・・・。

良くも悪くもいろんな要素が散りばめられた作品で、物議を醸し出すこと間違いない作品。実際、ネット上には自衛隊や国の防衛策に関して、今作を絡めた評論が溢れるようになっている。
作品全体に込められたメッセージの深さの前では、CGの粗さや後半の細かい部分に関するちょっと雑なストーリー展開などは些細な問題だ。
ハリウッド映画も含めた歴代のパニック映画の中でもトップ5に入る作品です。

一口コメント:
カメラのアングル、BGM、編集など、いろいろとエヴァ色満載のゴジラ!です。

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