宇 宙 兄 弟 |
週末に「ホビット 思いがけない冒険」を見終わった後にTVで放映していたので、見た作品。
子ども時代にUFOを目撃し、一緒に宇宙飛行士になることを誓い合ったムッタとヒビトの兄弟。それから19年後の2025年、弟のヒビトは念願叶い、宇宙飛行士となり、日本人初の月面歩行者となるべく宇宙へと旅立とうとしていた。
一方、兄のムッタは会社を首になり、悶々とした日々を過ごしていた。そんなある日、JAXAから宇宙飛行士選抜試験の書類審査通過の知らせが届く。
一時は夢を忘れていたムッタだったが、弟との電話のやり取りもあり、再び夢を追いかけ始める―――。
久々に"夢"を追いかける映画に胸を熱くさせられた。
脚本にしろ、映像美にしろ、良い意味で日本映画っぽくない。まずオープニングからして、センスが良い。「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」を少し思い出させられるレトロな雰囲気でちょっと期待度アップ。
そしてJAXA、NASAという日米の宇宙関連組織の協力を得たこともあり、ロケットの打ち上げシーンの迫力は今までの日本映画のそれとは一線を隔す。というか、そもそも日本映画で宇宙を扱った映画があっただろうか?(・・・そういえば日本では劇場公開時に"はやぶさ"という名の同じような作品が3作も公開されていたっけな・・・、どれもイマイチな成績だったはず・・・)
とはいえ、打ち上げそのものの映像はすごいのだが、ヒビトが乗ったロケットの打ち上げを見守るムッタのシーンは合成っぽい感じが拭えない。この辺りの詰めの甘さはやはり日本映画。
しかしそれを補って余りある名言がこのシーンで生まれている。実際にアポロで宇宙に行ったことがあるという老人の台詞がそれ。「あのロケットの動力は何だと思う?あのでかいロケットを打ち上げる動力は"人間の魂"だ。乗組員の宇宙飛行士だけでなく管制塔の面々、スタッフ、技術者、そして応援してくれる人々・・・全ての人々の思いが、あのロケットを打ち上げるのだ!」という台詞。後で調べたらこの台詞を言っている老人が実際に月面を歩いたバズ・オルドリンなる人物ということで、その言葉の重みをより一層増している。
他にも「アポロ13」のトム・ハンクスを真似するシーンなど、宇宙に関するオマージュがいくつもあって、日本映画がSF映画においてハリウッド映画をオマージュする日が来るとは、時代も変わったもんだなぁ・・・なんて感慨深くなることもあった。
そしてさりげなく感情移入させられるこの兄弟のキャラクター・バランスが絶妙。
兄がダメ男で、弟が優秀。それを裏付けるかのように兄は"ドーハの悲劇"当日に生まれている・・・。そして小さい頃は「兄は常に弟の先を行っていなければならない!」という台詞が印象的で、実際にそのように行動していたのだが、大人になり立場が逆転していて、冒頭で仕事を首になる兄。対象的に弟は純粋に夢を追いかけ、ついには月面移住計画のために日本人史上初の月面歩行者に選ばれる。
"一緒に宇宙に行こう!"と誓い合った約束すらも忘れていた兄と、その約束を果たすために一歩先に宇宙へと旅立つ弟。このギャップに兄がコンプレックスを感じつつも、弟の存在が兄の夢を後押ししていたりもする。それを象徴する10日間の密室訓練後の面接が何とも感動的。
この作品の核とも言うべき2人の関係。主人公が挫折を経験してそこから這い上がり、成功していくストーリーというのはよくあるが、この作品はそこに兄弟愛を持ち込み、兄と弟を光と闇として対比することで作品に深みをもたらしている。
とはいえ突っ込みどころはいくつもある。例えば"グリーン・カード"(アメリカの永住権ではない・・・)。10日間の密室訓練の最中にムッタだけに渡される秘密の指令カードのことで、これがきっかけでチームが崩壊へと向かうという危険な代物なのだが、なぜムッタが選ばれたのか?そしてこのカードが原因となり、ある報復行為が行われるのだが、その犯人が誰なのか?という謎が謎のままで終わってしまう。
そもそも6人いる中で1人だけ不平等とも言えるこういった審査が実際にあるのか?という大きな疑惑が残る。しかも6人の中の1人・ケンジが"犯人を見つけたら握手をしよう"と言っていたのに対し、握手することもなく、広げるだけ広げた伏線を回収しないまま放置というのはいかがなものか?漫画が原作らしいので、漫画にはこの辺りの流れが細かく描写されているのだろうが、映画にした以上、伏線を引くなら回収してほしいし、回収できないなら最初から台詞を削除してほしい。実際、このケンジの台詞はなくてもストーリーの進行上は問題ないし・・・。個人的にはこの台詞を削除して密室訓練の中で描かれている6人の個性をもう少し掘り下げる描写を入れて欲しかった。
もう1つ大きく気になったのが、時代考証。
ヒビトが宇宙に行く前に受けたインタビュー。NASAでの会見であり、かつ2025年という設定のはずなのだが、マイクがコード付きというのはリアリティにかける。かと思えば、子供時代・・・といっても2006年にカセットテープで録音している先進国日本とは思えない描写。"昭和"じゃなくて"平成"ですよね・・・。ハリウッド映画ならあり得ないミスと言える。
そして最大の問題がラスト。月面で事故に遭遇したヒビト。どうやって助かったのか?というこの作品最大の謎はもちろんだが、このトラブルに関しても、物語の前半で訓練シーンを描いているのにも関わらず、その伏線がまったく生きていない。訓練シーンでこういうトラブルの際にはこう対処すると描いておけば、当然それが助かった方法として連想できるのだが、残念ながら訓練シーンと事故シーンでは対処方法が明らかに異なる。
こういう重要なシーンをショートカットする割りに無駄な伏線に時間を割いているのは脚本のミス。この辺りハリウッドでリメイクされたら、上手く描写してくれるんだろうなぁ・・・と残念に思った。とはいえ、全体の流れとしては面白いし、読んだことはないが漫画原作ということでストーリーもおそらくしっかりとしているのだろうから、ぜひともハリウッドでリメイクしてもらいたいものだ。
この作品を一言で言い表すなら、"宇宙"という夢を追いかける兄弟の兄弟愛をド・ストレートに描いた作品ということになる。その兄弟の周りを固めるJAXAの職員も固い職業ではあるが、彼らの出発点も結局は密室訓練の最後にムッタが語った"宇宙が好き"発言に行き着く。堤真一演じる面接官の「そのほうが夢がある!」発言なんか、その真骨頂。
ド・ストレートだけにムズ痒さを覚える人もいるかもしれないし、真剣に宇宙飛行士を目指している人からするともしかしたら陳腐に映るかもしれない。兄弟が宇宙飛行士になるという以外なんのひねりもない、非常にシンプルな物語。最後には月面に日の丸を立てる突拍子もない描写も登場する。
それでも映画というエンターテインメントの王様とも言うべきメディアが夢を語らずして、何を語るんだ!というエンターテインメントのあるべき姿を改めて教えてくれた作品でもあった。
夢を追い続ける兄弟の物語ということで、自分にも兄弟がいたらなぁ・・・とか、自分が子供時代に描いた夢を思い出したり、そんな思いを感じさせてくれる作品です。そして自分が子供時代にこの作品を見ていたら宇宙飛行士を目指していたこと間違いなし!!の作品でもある。