ホビット 思いがけない冒険
採点:★★★★★★☆☆☆☆
2014年3月15日(DVD)
主演:マーティン・フリーマン、リチャード・アーミティッジ、イアン・マッケラン、アンディ・サーキス
監督:ピーター・ジャクソン

アカデミー賞30部門ノミネート、17部門受賞という歴史的大作「ロード・オブ・ザ・リング」3部作から9年。その前日譚とも言うべき「ホビット」3部作の第1弾ということで見たかったのだが、アメリカでの公開時期にヨーロッパを旅していたこともあり、日本帰国後、1年経ってパート2を劇場で見るために予習がてらDVDで鑑賞。

ホビット族のビルボ・バギンズは、魔法使いのガンダルフから思わぬ旅の誘いを受ける。ドラゴンに乗っ取られたドワーフの王国を奪還するための旅。本来ホビット族は平凡な日常を愛する種族で、ビルボはガンダルフの誘いを断る。その夜ビルボの家に13人のドワーフ族がやってくる。彼らにガンダルフを加え、夜通しドンチャン騒ぎをして翌日の旅立ちに備える。一行が旅立った翌朝、急に寂しさがこみ上げ、ドワーフの一行を追って、ビルボも旅を始める。
トロールたちにとらわれ、オークの群れに襲われるも、何とかエルフ族と出会い、旅のヒントとなる地図を解読してもらうことに・・・。

10年振りにこのシリーズの新作を見たのだが、正直そこまでの興奮はなかった。
おそらく前のシリーズが「ハリー・ポッター」シリーズと2大ファンタジー巨編を競い合っていて、当時最先端を行くCGを駆使した今まで見たことのないファンタジー巨編として時代の最先端を行っていたのに対し、その後の10年の間に他の作品もCGのレベルが上がってきたことが要因の1つだろう。
そして前のシリーズで一度体験しているという前例体験があり、内容的にも映像的にも同じような内容では新鮮味はない・・・というのが2つ目の要因。実際、3時間近い上映時間、旅立ちまで妙に長く、旅立った後は"延々と歩く⇒敵に襲われる⇒ガンダルフの魔法で危機を脱する"の繰り返しばかりでワンパターン。それでも前のシリーズは上映中に"長い"と感じることはなかったが、今作は長いと感じることが少なからずあった。
そして前のシリーズと同じ道程をたどっていることもあり、その点においても新鮮味がない・・・。

長い割にはキャラクターの掘り下げが少なく、13人もいるドワーフ族に至っては弓の得意なドワーフと王子の2人以外はほぼ記憶にない。
前シリーズはその点、ホビット、ドワーフ、エルフ、人間といった様々な種族がうまく絡み合い、長い上映時間をかけて1人1人のキャラクターを描いていた。それもあって歴史に名を残す超大作と成りえた。
1作目だけで判断するのは難しいが、やはり物足りない・・・。

そしてこの作品の最大の問題はビルボが旅に出た理由。彼が旅立つまで40分近くあるのだが、平和好きなホビット族のビルボはかなり頑固に拒否し続けていたのに、目を覚ますと叔父の冒険好きの血が騒いだのか、あるいは故郷での暮らしを切望するドワーフ族に共感したのか、突然旅立つ決意を決める。
そこに至るまでのビルボの心の葛藤がないし、そもそもビルボでなければいけない理由がない。ガンダルフの意向以外の何ものでもない。旅が始まってからも"これが目的"っていうビルボの強い意志がないため、こちらとしても感情移入しにくい・・・。
その点、前のシリーズは闇の冥王サウロンという巨大な敵がいて、指輪を捨てるという使命をフロド本人が苦悩したり、自覚したりする過程があって、こちらも感情移入していけるという伏線があった。主人公がひ弱であるが故に、主人公が感じる"恐怖と切迫感"を観客である自分も感じられたし、そんな弱い主人公が一番強い思いを持っていたという点がドラマとして作品を盛り上げていた。
この点をパート2、パート3で解消できないとこのシリーズは正直厳しいかもしれない。

と、ここまでは批判ばかりだったが、敵との戦闘、あるいは逃亡シーンはなんだかんだいって見ごたえがある。中でもゴブリンの住処での闘争かつ逃走シーンはハラハラドキドキの連続。そして1人はぐれてしまったビルボが出会うゴラム。懐かしい。この情緒不安定さも変わってない・・・。というか、むしろパワーアップしてる?
しかも2人でナゾナゾを出しあったりして、なんとも平和。そして前のシリーズの肝であり、タイトルともなっている指輪もここで入手!そのシーンはさすがに心奮えるものがあった。むしろ、個人的にはこのパート1の最大の見せ場だったと言っても過言ではない。

ピーター・ジャクソンだからこそ作りえた「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズだったわけだが、この1作目だけで判断するなら他の監督が取ったバージョンを見てみたかったという気もする。
これだけキャラが立っていない登場人物だらけで果たして残り2本盛り上がっていくのか?すごく不安ではある・・・。

一口コメント:
前シリーズが偉大すぎて期待値が高くなりすぎた感が一杯で、キャラ立ちしない登場人物にパート2以降の不安を拭えないパート1です。

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