蒼き狼
~地果て海尽きるまで~

採点:★★★★★★☆☆☆☆
2007年3月19日(映画館)
主演:反町 隆史、菊川 怜、若村 麻由美
監督:澤井 信一郎

昨年の「男たちの大和 YAMATO」に引き続き、角川映画復活ののろしを上げるこの作品。
製作費30億円、エキストラは2万5千人、一頭10万円の馬を5000頭そろえ、大軍勢シーンを表現したという、超大作。

モンゴル部族の族長イェスゲイの妻ホエルンはメルキト部族から略奪した女だった。そのホエルンが男子を出産し、テムジンと名づける。青年になったテムジンは、とある部族の族長の娘ボルテと婚約。一方、ボルテの幼なじみジャムカとは、生涯の友情を守る"アンダの誓い"を交わす。
父の死後、新しい族長の裏切りに会いながらも、テムジンは離れ離れになっていたボルテと再会し、2人はめでたく結ばれるが、母ホエルンの元夫であるメルキト部族がボルテを奪っていった。10カ月後、テムジンは再びボルテを奪い返すが、その時、彼女は妊娠していた・・・。
数年後、ジャムカの裏切りにより、モンゴル統一をかけた大決戦が始まる―──。

日本ではいろいろと酷評されていたが、そこまで悪くはない・・・、というのが率直な感想。
その最大の要因は間違いなく、CGではない、本物の馬と人間を使った大合戦の描写によるところが大きい。そもそも日本映画で、しかもTV局主体でない映画で制作費30億円という映画を作ったこと自体が、ある意味奇跡に近い。
分かりやすくいうならば、「ロード・オブ・ザ・リング2」の戦闘シーンをCGなしで見ている感覚だ。ただし、逆にいえば、この映像がCGなしで作られているということを知らない状態で見てしまえば、そこまで新鮮味のある映像ではないということも言えるわけである。

がしかし、せっかくのお金と人員をかけた大合戦も編集が悪い。1つ1つのカメラワークは悪くない(地面から撮った頭上を馬が駆け抜けていく映像とか・・・)のだが、1つ1つのカット割りとか、シーンとシーンのつなぎ方がいまひとつ。
例えば、両軍の軍隊が斜面を駆け下りて、激突する映像。空からの俯瞰図を使ってはいるのだが、1カットが短すぎるし、肝心の激突のシーンが俯瞰図ではなく、UPになってしまっていて、せっかくの迫力を消してしまっている。自分なら、激突のシーンはギリギリまで俯瞰図で見せて、ぶつかった瞬間にUPに切り替える。その方が、せっかくの大軍勢を画面いっぱいに生かすことができるから。

ストーリー的にもいろいろと問題点はある。2時間半の上映時間にいろいろと話題を詰め込みすぎたという批判もあるだろうが、同じように1人の英雄を描いた映画であっても、2時間でうまくまとめている映画もあるわけだから、この批判は的を得ていない。
では何が問題なのか?2時間半の映画の中で起こる各種の事件の1つ1つがそれ以外の事件との関連性が薄いという点。1つ1つの事件の結びつきが薄いため、ドラマとしての深みがないし、1つの事件が終わるたびに、観客の感情が途切れてしまうのだ。
この点においては、毒矢がかすめた後にどのように軍を立て直したのか?といった描写がないなど、いくつかあるのだが、中でも一番ひどかったのが津川雅彦の使い方。チンギス・ハーンの即位式で、チンギス・ハーンを命名するのだが、それまで一度も出てこないまま、いきなりそのシーンで登場してきて、何の役職なのか?そしてこの男が何者なのか?という説明もないまま、突然「彼の名前はチンギス・ハーンだ」と言われても、何の深みもない。前もって、この人がシャーマンだという説明をするシーンをどこかに入れておけば、このシーンにも深みが出ていただけに、残念だ。
一方、テムジンがどんな策略を用いて周辺部族を統合したか?、あるいはジャムカとの運命をかけた合戦で、どのような戦術を持って、勝利を得たのか?といった描写がないのも、ドラマとしての深みを与える意味では、この作品の欠点だと言える。

ところで、映画が始まってから40分くらいだろうか?かなりつらかった・・・。というのも、台詞の言い回し。時代劇を思わせる話し方なのだが、これが聞いていて、つらかった。製作段階から言われていたことではあるが、何故にモンゴルの英雄を日本人が演じ、日本語で話しているのか?という問題が大いにのしかかってきた。
個人的には、日本が舞台で、芸者をテーマにした映画であるのに、中国人が主役を演じ、しかも全編英語という映画、「SAYURI/Memoirs of a Geisha」で日本人が疑問に思った感覚に似ているだろうと思っていたが、思った以上にこの点が大きかった。
映像はモンゴルなのに、台詞は日本語。しかも時代劇チックな台詞回し。というところに違和感を感じまくって、結局物語りに入り込むまでかなりの時間がかかってしまった。おそらく批難が集中しているのも、この点が大きな理由になっているに違いない。
それともう1つ言うなら、台詞回しどうこう以前に、演技が論外な役者も数人いたことも事実である。

役者について言うと、まずは片言の日本語を話す韓国少女をなぜ出演させたのか?というのが一番の疑問。モンゴル人の話を日本語で話している時点で問題が出ているというのにも関わらず、そこに流暢な日本語を話すことができない韓国人を出演させるのは何故だろうか?正直、これは演技力どうこうではなく、韓国公開を見据えた戦略だとか、あるいは制作会社の力関係といったものが見え隠れしているように思う。
そんなキャストと時代劇調な台詞回しの中、若村麻由美の芝居だけが、自然であり、見ていて安心できる存在だった。チンギス・ハーンの母親という役どころだから・・・、ということで狙って、この演出をしたのであれば、それは正直、凄いが、狙ってやったとは思えない。
個人的には角川映画「天と地と」の上杉謙信役の榎木孝明と武田信玄役の津川雅彦が出演している点は面白かった。

一口コメント:
モンゴルを舞台にしたチンギス・ハーンという男の人生を、日本という国が作ったファンタジー映画(?)です。

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