名探偵コナン 緋色の弾丸
採点:★★★★☆☆☆☆☆☆
2022年4月22日(TV)
原作:青山 剛昌
監督:永岡 智佳

新型コロナの影響で劇場版コナン・シリーズの歴代興行収入塗り替え記録は7年で途絶えたものの、「劇場版 呪術廻戦 0」、「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」に次いで、2021年興行収入ランキング第3位を獲得した作品。
前作の最後で名古屋・栄のテレビ塔とオアシス21が映っていたが、その予告通り今回は名古屋が舞台。そしてもともとの公開予定が2020年ということもあり、東京オリンピックを意識しつつ、2027年に開業予定の名古屋⇔東京を結ぶリニアを意識した超電導リニアなるものがもう1つの舞台となっている。

4年に一度開催される世界最大のスポーツの祭典・WSG(ワールド・スポーツ・ゲームス)が東京で開催され、その開会式にあわせ、最高時速1000キロを誇る世界初の真空超電導リニアを開発することが発表された。しかし、世界の注目を集める中、名だたる大会スポンサーが集うパーティ会場で突如事件が発生し、企業のトップが次々と拉致される!
コナンは、15年前のアメリカでも同様にWSGのスポンサーが拉致される事件が起きており、3人目の被害者が殺害され、FBIによって解決したことを知る。FBIとして事件を追う赤井秀一から捜査協力を頼まれたコナンは、3人目の標的と推理されるジョン・ボイドを護衛するため、園子のツテを利用して名古屋からリニアの体験乗車に参加することになる。
一方、MI6から密命を帯びた世良真純とメアリーも、名古屋へやってくる。そして羽田秀吉は名古屋での仕事のついでに宮本由美をデートに誘い、期せずして赤井一家が名古屋に揃うことになる。
リニア乗車前の検査が実施された病院で、クエンチによってコナンも気を失ってしまう。目を覚ますと、気絶している間にジョンが誘拐されたことが判明、更にWSG協会のアラン・マッケンジーも同時に誘拐されていたことが判明する―――!!

ここ10年の劇場版コナンでも群を抜いて質の高かった2作品、「異次元の狙撃手」、「純黒の悪夢」。どちらにも共通しているのが赤井秀一とFBI。今作はその赤井秀一とその家族がメインということで楽しみにしていたのだが、結論としては残念な結果となった・・・。

オープニングは15年前のアメリカ・デトロイト。ハーモニカと逃亡者のシンクロの演出は秀逸だった。つかみはここ10年でもトップレベルと言っても過言ではなかったのだが・・・。
そして現代に戻り、4年に1度の世界的スポーツ・イベントWSGのスポンサーを集めたイベントに前後する形で3つのスポンサー拉致事件が起きる。ここまでの展開も良かった。
しかしその3つ目の事件で、護衛対象であるジョンを誘拐された毛利小五郎が、まだジョンが見つかっていなかったにも関わらず、ひつまぶしを食べていたのはさすがに・・・。一見チャラけているけど、そういうところはきちんとしているのが小五郎の小五郎たる所以なのだが、今回はチャラけているとかそういうレベルではなく、脚本の校正ミスというひどいレベルのミス。
そしてお決まりの少年探偵団に向けた博士のダジャレクイズでトーンダウンする(これは水戸黄門の印籠と同じ役割なので仕方がない・・・)。その前後で探偵団がリニアに乗りたい!でも最終的に仮面ヤイバー・ショーに行くという一連の流れはなくても良かったかな?ショーを見に行くのであれば最後の最後、ショーの開催場所がせっかくリニアの終着駅の近くという設定=「コナンが乗った暴走特急が探偵団のいる会場に突っ込む」を活かしたラストの演出にしてほしかった(過去そういった演出も何度かあったのに、今回はなし・・・)。であれば、やはり探偵団は登場させる必要はなかったかな?しいて言えば園子の父親を元太の特技で発見するのだが、そこもコナンの推理で良かったのでは?と思えるレベルの内容だったし・・・。探偵団を描く時間があるのであれば、今作のメインキャラクターである赤井ファミリーをもう少し丁寧に描く時間に回してほしかった。

またリニア乗車前の検査会場で、クエンチに気づいた灰原が朦朧とする中コナンに警告したのに、コナンもあっさり一緒に眠ってしまったのは、「業火の向日葵」で主役をキットに食われて以来、久々のやらかし。そこは警告されたんだから機転を利かせて対処するのが名探偵でしょ!?
というか、そもそもリニア乗車前の事前検査って何?手荷物検査とかじゃなくて、血圧とか計測してるシーンがあって、リニアってそんな健康診断しないと乗れないのかよ!?って突っ込みを入れたくなるレベルの、これまた検査に関する一連のシーン不要じゃないか?っていう設定。
犯人が狙うターゲットを1人にするための描写だということはわかるが、他にいくらでもやり方あっただろ・・・。

またコナンがFBIに頼んでリニアに乗る予定だった全員の携帯を鳴らさせるのだが、1人だけ携帯が鳴らなかった人間が犯人という描写も不要。電源切ってたらそもそも鳴らないし、他に多くの携帯が鳴っている中で鳴っていない人を特定する方が、普通に考えて大変だろ!?
リニアの暴走を招いたぽっちゃり技術者を取り逃がしたシーンも何だかなぁ・・・。あれだけ大勢の関係者がリニア、並びに並走する新幹線、そして駅にいる中、逃走を許してしまうのはさすがにないわ・・・。その後の秀吉の活躍を見せるためには必要だったと言えば、必要だったが、そもそも秀吉が登場する必然性は赤井ファミリーというだけで、この取り逃がしがなければ本筋には一切絡むことがなかったキャラ。そう考えると逃走するよりも新幹線の特定車両をロックするなどして、その車両の中からリニアを暴走させる方が設定としてはリアリティがあったかな?
そもそも最初からリニアに人を乗せておいても良かったのでは?というのがどうしても最後まで消えなかった。リニアに人が乗っていて、終着駅近くの会場に少年探偵団がいて、リニアの中からコナンが、会場では少年探偵団が、お互いに協力しながら解決策を探る・・・といった展開の方が緊迫感もあったし、意味不明な事前検査がなく、全員リニアに乗車という自然な流れも作れたと思うのだが・・・。

他にも細かい描写で突っ込みどころはいくつもあるが、一番の突っ込みどころは何と言ってもタイトルにもなっている赤井秀一が撃つ弾丸(実際はリニアそのものとの二重の意味での弾丸)。上述のリニアを無人にした最大の理由でもあるこの銃撃シーン(一般客が乗っていてはこのシーンは成立しない・・・いや一般客が乗っていなくてもあまりにも実現の可能性が低すぎて赤井秀一凄い!とはならない)。
名古屋から山梨まで真空状態とは言え、数百キロも弾丸が届くのか?という飛距離の話ではなく、そもそも名古屋から山梨まで一直線の線路という大前提があり得ない。というのは途中でカーブがあった瞬間、この弾丸はリニアに届く前に何かしらの壁に当たるはずで、そのあたりの説明がないので、そこにリアリティがない。いや劇場版コナンシリーズにリアリティを求めているわけではないが、この設定はさすがに無茶苦茶すぎるではないか?
例えば少年探偵団や事前検査の一連のシーンを削って、真空超電導リニアの説明として「名古屋から山梨までを一直線に結んだ真空のトンネル」と一言入れて、更に「FBIの計算では時速1000kmで走る車両に追いつくためには初速○○kmで発射可能な特別製のライフルと~」といった説明を入れてくれれば、科学的根拠の有無に関わらず、アニメとしてはリアリティが増していただけに残念。磁石の影響を受けないように銀製の弾丸を作らせたところまではリアリティを持たせようとしていたこともあり、もうひと頑張りしてほしかったというのが正直なところ。

逆に期待を超えてきたシーンもある。
ここ10年のシリーズにおいてトンデモ展開が当たり前となり、前作では遂にシンガポールに現存するマリナ・ベイ・サンズまでをも破壊してしまい、次回作以降はいったい何を破壊するのだろうか?と不安になっていたが、その点において今作は期待を裏切ることはなかった。どれだけの国家予算がつぎ込まれたかわからないレベルの次世代の乗物と国際的な4年に1度のメイン会場を破壊することになったのだから・・・。

そして改善点があるとすれば、この作品の一番の見せ場を中盤に持ってきた点。その見せ場は上述の赤井の銃撃シーン。この実現性はさておき、世良でさえも「誰が撃ったんだ!?」と驚くような狙撃だったわけで、その種明かしを中盤でする必要はなく、すべてが片付いてから最後の最後であの種明かしをしていれば、もっと盛り上がっていただろうに・・・と思わずにはいられない。
また射撃距離についても普通なら数km(オリンピック競技でさえ最長は50m)なのだが、赤井は10㎞先の標的でさえ当てることが・・・的な説明があればまだしも今回はやはり距離が長すぎてリアリティが薄れてしまったのも残念と言えば残念。
逆にリアリティがあったのが今作品のメインの舞台とも言える真空超電導リニア。アメリカでは"ハイパーループ"と呼ばれる、ロサンゼルスとサンフランシスコの560㎞を時速約1200kmで35分前後で結ぶという、飛行機よりも早い輸送手段として、実現に向けて動いているプロジェクト。それを実世界で2027年に開業予定のリニアと結びつけて提示している点はものすごくリアリティがあると感じた。

そういえばエンドロールを見ていて、浜辺美波が声優として参加していることに気づいたのだが、本編を見ている最中はまったく気づかなかった。昔は子役に一般の子供の声を重ねていたこともあり、博士のクイズと同じく興ざめの原因になっていたが、最近は子供の声に興ざめすることもなくなっていることに改めて気づかされた。

一口コメント:
アニメだからこそのリアリティの無さもある程度限度があるな!と気づかされた作品です。

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