ベスト・キッド The Karate Kid |
1980年代に製作された同名作品のリメイク。
母親の転職で、アメリカから北京に引っ越して来た小学生のドレは、言葉や文化が異なる環境で、地元の美少女と仲良くなるが、それを快く思わない不良グループに目をつけられ、いじめに遭ってしまう。それを助けたアパートの管理人ハンにカンフーを習うことになり、猛特訓を開始。大会でいじめっ子たちと戦うことに―――。
下手なテコ入れはせずにオリジナルに忠実なリメイクこそが、健全なリメイクだ!というパターンのお手本のような作品である。
個人的にリメイクは3つのパターンがあると思っている。
パターン1: この作品のようにオリジナルに忠実な作品
パターン2: キャラ設定だけ同じで、まったく別の作品
パターン3: 基本は一緒だが、無駄なストーリーやキャラクターを追加した作品
パターン1は内容的にも興行的にも当たる作品が多い。アカデミー賞受賞作「ディパーテッド」などがその典型であり、ハリウッド版「リング」やこの作品もその系譜になる。
パターン2と3の場合、はずれ作品が多い。パターン2はハリウッド版「GODZILLA」やハリウッド版「リング2」がこれにあたり、パターン3は「猿の惑星」がその典型だろう。
それぞれリメイクの意義みたいなものがあると思うのだが、基本的にリメイクを行う意義は現代の人気俳優を使うことによって、オリジナルを知らない世代に、名作を次の世代へ伝えていくということが一番だろう。
その意味において、この作品はカンフーの代名詞とも言うべきジャッキー・チェンを向かえ、ハリウッドでもトップ・スターのウィル・スミスの息子であり、既に何本もの映画に出演しているジェイデンが出演しているのだから、多くの人に見てもらうという点では素晴らしいキャスティングであり、内容的にも非常に素晴らしいリメイクだと思う。
笑いにおいては、リメイクであることを利用した上手い笑いや、ジャッキーらしい笑いなど、オリジナルを上回っている。
例えば、ハエを箸でつまむかと思いきや、ハエタタキという笑い、ジャッキー・チェンが出演している作品なのにブルース・リーの名前をさらっとあげてしまう笑い。
さらに車のワックスがけ、と旧作のネタも出てきますが、見せかけだけで、やらない。それがまた笑いにつながったりして、非常に上手くリメイクされている。
そのワックスがけの代わりになったのが、ジャケットのオン・オフ。これがうまいことカンフーにつながっていて、そこにオリジナルと同じものを感じられるのに、やっているのは別のことというところがオリジナルを知っている人にも、オリジナルを知らない人にも楽しめるよう、心遣いされている。
そしてリメイクならではの細かい追加部分も楽しめる。トーナメント会場も現代的で、戦闘シーンのリプレイなんかはもうTVゲーム感覚だ。そして天安門、紫禁城といった観光地での撮影や、さらに万里の長城での訓練シーンなどは、ハリウッド映画ということでその風景を楽しませてくれるための演出と割り切って楽しむに限る。そしてオリンピックに向けて発展してきた現代北京の建築物が映し出されるのもハリウッド流サービス。
人物描写においても、オリジナルの要素をうまくリメイクしている。その典型が主人公が高校生から小学生になったという点。さらに言えば、アメリカから中国への引越しという要素を加えた点。この2つの要素によって、主人公の孤独感をより一層高め、観客の感情移入を促すことに一役も二役もかっている。
いかにも強そうな中国の子供たちに虐められ、痛めつけられ、殴られたアザを母の化粧品で隠し、学校でもいじめっ子から逃げ回る。怯えながらでも学校に通う健気な主人公に頑張って、見返せ!という気持ちが高まってくる。
そして主人公が思いを寄せる女の子。ここも七夕の説明を入れながら、お祭りの七夕劇に二人の初キスを重ね合わせるなど心憎い演出で、楽しませてくれる。
心情的に一番揺らされたのはハンが自分の家族について語る場面。長い時間をかけて修理した車を一晩で破壊し、その壊れた車の中で自分の壊れた心の内を語るシーン。泣き崩れる師匠を言葉ではなく、組み手で慰めるドレにハンだけでなく、自分も泣かされる。たいした子役だぜ!
ただし、いじめっ子たちの師匠が、あまりにも悪人すぎて、こんな奴現代にはいないだろう?という点だけはちょっと冷めてしまった。ただ中国ならそういう可能性はなくはないかも?という思いは少なからずあった。
作り手としてはあくまでも善悪をハッキリとさせるためにしたころだろうが、あそこまで悪い奴が武道の指導者というのはあまりにも非現実的ではないだろうか?
総評としてはKarate Kidというタイトルなのに、やっているのはKarateではなく、カンフーという意味不明な部分もあるが、リメイクとしては大成功と言える作品だ。