ゴースト・イン・ザ・シェル
Ghost in the Shell
採点:★★★★☆☆☆☆☆☆
2017年4月8日(映画館)
主演:スカーレット・ヨハンソン
監督:ルパート・サンダース

日本のアニメ映画の実写化(厳密にはアニメの原作もあるが・・・)ということで、「ドラ"ギョ"ン・ボール」の二の舞にならないか?という不安を抱きながら鑑賞した作品。

ネットに直接アクセスする電脳技術が発達し、人間が身体を義体化するようになった近未来。脳以外は全て義体化されたキリアン少佐が所属するエリート捜査組織「公安9課」は、サイバー犯罪やテロ行為を取り締まるべく、日夜任務を遂行していた。
そんな中、ハンカ・ロボティックス社の推し進めるサイバー技術の破壊をもくろんだテロ組織による事件を解決すべく、ミラ少佐は同僚のバトーらと共にある現場に侵入するが、事件を調べていくにつれ、自分の記憶が何者かによって操作されていたことに気付く―――。

なんだかなぁ・・・?キャラ設定といい、世界観といい、どこかで見たような感じ。
その大きな原因は、アニメ映画が1990年代の作品であり、そのアニメに影響を受けたハリウッド作品が既にたくさん世に出てしまった後だということ。もっとも有名な作品が「>マトリックス」三部作だろうか?マトリックスの中では義体どころか、更に先を行く電脳空間を描いていて、マトリックスを見たことがある人にとっては既視感が強いと思われる。またアクション・シーンにおいても、マトリックスのような今までに見たことがない!的な驚きは一切ない。
原作の影響を受けたわけではないだろうが、他にも「ブレードランナー」、「マイノリティ・リポート」などで描かれた世界観にも同じ匂いを感じるため、原作そのものは先進的な作品であったにも関わらず、実写化まで20年以上の月日が流れたため、実写作品としては先進的どころか過去の類似作品の焼き直し感が半端ない仕上がりになってしまっているのは非常に残念。
また最も後に制作されたにも関わらず、先に述べた作品群に比べて世界観の作り込みにおいてチープさが垣間見える。例えば2017年現在、現実世界でも自動運転が現実のものとなっているにも関わらず、主人公のミラが所属する公安9課の仲間が運転する車はハンドルによる運転が普通。脳以外の人体をすべて義体で置き換える技術がある世界において、この自動車の設定はいかがなものだろうか?たとえ原作でそういう設定あったとしても原作が描かれた時代においては自動運転の技術はなく、その技術が確立した現代において実写化するのであれば、そのあたりは考慮してもらいたいものだ。
他にもCGのクオリティや合成がいかにも合成って感じがして、ハリウッド映画じゃなくて日本映画か?と思ったりもした。特にクライマックスの多脚戦車のデザインはいかにも80年代、90年代に描かれた未来世界のデザインで、2017年に公開する作品としては、頭の中にたくさんの?が並ぶ結果となった。

そういったいくつかの世界観におけるクオリティをクリアした状態で、マトリックス以前に公開されていれば、もしかしたら歴史に名を残す作品として人々の脳裏に記憶されたかもしれない・・・。

また個人的にはオープニングで制作スタジオのロゴが表示される中に中国の会社が2つもクレジットされていたのに驚いた。昔、SONYや松下がハリウッドスタジオを買収したことがあったが(SONYは今でも所有している)、中国も最近SONY、松下の後を追うかのようにスタジオを買収したのがニュースになっていた。
しかし日本原作の作品にまでチャイナマネーが流れ込んでいるのを見ると少し寂しい感じになった。せめてSONY Picturesが制作してくれていれば・・・。

作品そのもの評価から少しずれてしまったので、話を本筋に戻そう。
この作品は主人公の自分探しの旅が主題となっている。そういった意味ではスカヨハ演じる主人公の人物描写はやや中途半端。任務を忠実ではなく、自己流に果たすことに専念し、自分自身のことを探したいという感情さえなかった冒頭は格好良い義体女性として描かれているのだが、後半に行くにつれて自分探しの色が濃くなっていくのだが、そこに描かれるはずの主人公の苦悩がやや薄い。怒りに感情をまかせるでもなく、ひっそりと涙を流すでもなく、懸命に自分の親を探すシーンをじっくり時間をかけて描くわけでもない(親を探すシーンもかなりあっさりとしていた)。となると、当然ながらそこに感情移入はできない。
そのあたりをどこか主人公に感情移入できるようなシーンを挿入するだけで、作品の世界観により深く入り込むことができただけに残念だ。

またクライマックスの敵についても描写が不十分。敵らしい敵との戦いはオープニングとこのクライマックスの2回しかないのだが、あまりにもあっさりと決着がついてしまい、オープニングがわりと格好良かっただけにこれまた残念。
こういったシーンでは、圧倒的な戦力差を描いた上で、主人公やその仲間がウルトラC級の技を繰り出す・・・というのが常套手段なのだが、そもそも圧倒的な戦力差というのを感じる描写がない。しいて言えば銃弾が通じない装甲ということになるのかもしれないが、それならそれで銃弾がダメなら(ベタではあるが・・・)、バズーカや爆弾で!って感じのレベルアップを何回か試してもダメで・・・といった描写を入れるべきだと思うのだが、それもない。

そして主人公のミラと公安9課の仲間であるバトーと荒巻以外のキャラが存在感薄すぎるのも難点。作り込みが足りない世界観をダラダラと描く描写を短くして、他のキャラの描写に時間を充てるなり、上述のクライマックスシーンに時間を充てるなり、時間の配分をもう少し考えて欲しかった。
そういった意味では日本人であるミラの母親が英語をしゃべっているにもかかわらず、1人だけ日本語を話す北野武のキャラ設定はどうなんだろう?電脳通信という非常に便利な設定があるのであれば、北野武以外のキャラも別の言語を話させて、どんな言語も電脳通信状況下では、英語に自動変換されるとかって描写の方が良かったのではないだろうか?

そして肝心の脚本。
一言で言うと意外性も起伏もまったくない、珍しいストーリー展開だった。何というか、盛り上がりがほぼない。オープニングが一番盛り上がりその後はアップダウンもなく、最後の最後まで平坦な道を歩いている感じ。"走っている"わけでもなく、"歩いている"感じ。だからといって退屈するわけはないのも不思議な感じ。敵の正体も、黒幕の正体もよくあるパターンだし・・・(ミステリーやサスペンスではないので、そこを求めるのは違うかもしれないが)。

というわけで、あまり良いところがない作品ではありますが、公開のタイミングが遅すぎた・・・その一言に尽きる作品です。

一口コメント:
マトリックス以前に公開されていれば、もしかしたら歴史に名を残す作品として人々の脳裏に記憶されたかもしれない・・・、そんな作品です。

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