スター・トレック STAR TREK |
シリーズ最新作ながら、シリーズの原点とも言うべき内容を描いた作品、かつJ・J・エイブラムスの監督作品ということで見てきました。
ロミュラン人のネロが惑星連邦のU.S.Sケルヴィン号を襲い、800人の乗組員の命は救われるが、船長だったカークは殉死する。その名誉ある船長を父に持つカーク。幼少期から回りを困らせるいわゆるガキ大将だった彼は、ある日、バーで1対4の喧嘩をしていたところに現れたパイク大佐の話を聞き、父の後を追うように艦隊に入隊する。
不正行為を働き、優秀な成績を残すカークだったが、それがバレてしまう。その罪を咎められている最中に緊急事態が発生し、エンタープライズ号に紛れ込むことに成功。
しかし、そこでスポックという優等生と出会い、対立を繰り返すことでカークの船長としての真の力が目覚めていくことに・・・。
久々にSF映画の醍醐味を味わえた作品です。オープニングから宇宙での銃撃戦が展開され、"これを待ってました!"といった感じですんなり物語りに入り込める。
冒頭、宇宙空間に突然現れる巨大な宇宙船。しかもいままでのSF映画にあったようなスタイリッシュな外観ではなく、いかにも悪いやつが乗ってそう、そしてかなり強大な雰囲気が漂う外観をしている。そして予想通り、圧倒的破壊力を持って敵を倒していく。これぞハリウッド映画!という王道の映像展開。「スター・ウォーズ-エピソード3-」のオープニングほどの迫力はないものの、夏の大作映画としては文句なしのオープニングです。
ただし、その後の展開はよく言えば、"王道"の、悪く言えば"ありきたり"な展開が続く。例えば、カークが不時着した氷の惑星。そもそも不時着するということ自体が、今までに何度となく見てきた展開だし、しかもそこが氷の惑星って・・・。でもって恐竜のような未知の生物に襲われるという展開もどこかで見たような・・・。さらにその危機を救うのが、主人公の身近な登場人物の近親者って・・・。もう、"王道=ありきたり"の展開のオンパレードです!
ただし、そうした"王道"の間に小刻みな笑いを入れていくことで、物語はスムーズに進んでいく。カークの手がワクチンのせいで膨れ上がったり、別の登場人物が水道管の中を流されたり、物語の本筋とは関係のないところで映像的な楽しみを入れることで、物語の流れを壊すことなく、作品全体の流れの中でのうまく緩急をつけている。
といった感じで、ストーリー展開にはあまり新鮮味はないが、キャスティングは素晴らしい。
まずは主人公のカーク。最初はただ生意気な悪ガキといった印象で、この俳優が主人公?とやや不安だったが、これが物語が進んでいくにつれて見事に良い男になっていく。
物語冒頭では、悪知恵が働き、女たらし、かつ暴力的という悪い男に必要な要素をすべて兼ね備えた男として描かれていたのが、物語が進むに連れて、それぞれの要素が、
"悪知恵が働く"⇒"機転が利く"
"女たらし"⇒"誰からも好かれる"
"暴力的"⇒"リーダーとしての統率力"
という要素に変わっていく。前半に描かれていたマイナスの要素を見事にプラスの要素に変換していくという展開が、どこか憎めない人間味あふれたキャラクターを形成し、そのことが、ただの悪ガキから、宇宙船の船長へと成長していくストーリー展開に説得力を与え、カークの成長物語としてのこの作品の価値を高めている。さらに英雄として死んだ父親の素質をカークにかぶらせることで、物語に深みを与えている点も見逃せない。
そしてのそのカークと対立するスポック。彼は誰が何と言おうとまずは、その外見。「スター・トレック」シリーズの中でも最も個性の強いこのキャラクターを演じるためにはやはり、その外見は重要である。
世界中で多くの人が認知しているキャラクターを演じる上で、外見が重要なのは誰もが知るところだとは思うが、最近で言えば「Dragon Ball Evolution」はひどかった。孫悟空をアジア人が演じていないこともあり、日米で大失敗に終わってしまっている。逆に成功した例で言えば漫画の実写化である「20世紀少年」は見事だった。
この点において、今回のスポックはこれ以上ない見事なキャスティングだと言っても良いかもしれない。(オリジナルのスポックが登場するという心憎い演出も非常に嬉しい)
そして外見だけでなく、成長していくカークを何とかして宇宙船から追い出そうとする嫌味な優等生という難しい役どころを演じきった演技力も素晴らしい。カークがいわゆる"悪ガキ"であるのに対し、スポックは超の字がつくほどの"優等生"。
現実世界では決して相容れることのない真逆の2人。
この作品の一番の見所は派手はSFシーンではなく、実はこの真逆の2人の対立、そして心の葛藤だと思う。この部分がとてもしっかりしているから、その他の乗組員のサブ・ストーリーもすごく際立つ。基本的にこの作品の登場人物はこの2人のどちらかに関連している。だから、2人を中心に据えていることで、2人が成長していくのに合わせて、他のキャラクターも成長していくのが、非常にわかりやすい。
これがどちらか1人に焦点を当ててしまっていたとしたら、焦点の当たっていない側の登場人物たちの成長はここまで上手くは描けなかっただろう。
個人的には、感情を表に出さずいつも無表情なはずのバルカン人の血を引くスポックが、自分がハーフという事にコンプレックスを感じているという設定がすごく人間味があって、物語への感動移入がしやすかった。
コンプレックスというものは誰もが持っているものだから、そこをうまく描くことで、多くの人の心を捉えられるのではないだろうか?
さらに優等生の彼が、自分とは真逆の性格を持つカークによって、心の平静を壊されるという設定も非常にうまい。自分とは真逆のライバルが存在したとしたら、それほど心かき乱される存在はいないだろう。例えば、好きな異性が居て、そこに自分とは真逆のタイプの同性が存在するシチュエーションを考えればわかりやすいだろう。
登場人物の中で残念だったのが、敵のネロ。
外見がちょっと痛い・・・。坊主頭で、全身タトゥを入れて、黒のロングコート。これまた"王道"すぎて、いまどきこんな悪役いないだろ!って、思わず突っ込みを入れたくなってしまう。しかも意外と強くない。決して弱くはないのだが・・・。カークの父親を殺した冒頭は恐ろしいくらい強かったのに、最後のカークとの戦いは正直、そこまで強さを感じることがなかった。これは非常に残念。"王道"をなぞるなら、やはり最後の敵は非常に強大な力を持ち、主人公がギリギリ勝つくらいの展開にしてもらわないといまいち盛り上がらないし、それがクライマックスとなれば、なおさらだ。
この点においては、この作品はやや不満が残る展開だったかもしれない。クライマックスがいまいち盛り上がりに欠けたことで、見終わった直後の満足度が随分と違うのだから。
とはいえ、全体を通して見ると夏の大作映画としては、十分に楽しむことのできる作品です。