20世紀少年 第1章
採点:★★★★★☆☆☆☆☆
2008年12月7日(DVD)
主演:唐沢 寿明、豊川 悦司、常盤 貴子
監督:堤 幸彦
原作:浦澤 直樹

邦画としては珍しい3部作、総製作費60億円、総勢300人のキャスト、という邦画としては破格の大作映画であり、原作となった漫画も浦澤直樹の名作というということで、製作決定段階から盛り上がっていた作品。

ロックスターを目指していたがその夢を諦め、今は実家のコンビニを継ぎ、失踪した姉の子供を育てているケンヂ。同窓会で久々に会った旧友たちから、ケンヂが子供時代に書いた「よげんの書」そっくりの事件が起きていることを聞く。その首謀者は"ともだち"と呼ばれる教祖が率いるカルト教団。しばらくして仲間の1人だったドンキーが殺され、事件の謎を解こうとケンヂは立ち上がる。しかし、逆に"ともだち"によって、テロリストの汚名を着せられてしまう―――。

ここまで有名な漫画の実写化となると、いろいろと批判も出てくるだろうが、そんなことは覚悟の上で、この作品を作ったスタッフに拍手を送りたい。
心配していた不安はとりあえず、拭われた。あまり知名度の高くない漫画の実写化は「海猿」シリーズ、「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズと、秀作が多い一方で、人気漫画の実写化と言うと、どうしても「Death Note」を思い出してしまい、どれだけひどいものが出来上がってくるのだろう?と不安に思っていたが、一安心である。

漫画の実写化をする上で最も難しいのがキャスティングだろう・・・というのも原作を読んだ人たちの頭の中で、それぞれのキャラクターのキャスティングというのが既にあり、しかも読者1人1人、同じキャラクターであっても違うキャスティングをしているのだから、非常に難しい。
しかしこの作品は、この点において可能な限り、原作のイメージに近いキャスティングを行った。しかし主人公となるケンヂだけはイメージよりも演技力を重視したのか、あまり似ていない唐沢を持ってきた。この点がまた良い。単純に全員似ているキャスティングにしました!ではなく、役どころによって、イメージよりも優先させるべきは優先させましたという心意気、しかもそれを主役でやっている!!
正直、最初にケンヂ役が唐沢と発表された時は、かなりイメージと違うなと思った。が、見てみるとこれがなかなかに良い。その他の役のキャスティングに関しては素晴らしいの一言。
そしてさらにそれぞれの子供時代を演じた子役に驚かされた。ここまで似てるキャスティングは「世界の中心で、愛をさけぶ」、「ボーン・アルティメイタム」以来。よくぞ、ここまで似ている子役を探し出したものだ。しかし、いかに大人のキャストに似せるか?に比重を置いたためか、子役の演技はいまいちである。しかし、今回は漫画原作ということで、容姿に重点を置いたのは理解できるし、ここまで似ている子役を探し出したことを踏まえると、子役の演技力はまぁ、目をつぶっても良いだろう。
そしてこの3部作は総勢300人のキャストということで、非常に登場人物が多く、それぞれの関係を整理するのがとても大変なのだが、それを同窓会という素晴らしい設定であっという間に片付けた点も素晴らしい。

そしてストーリーはもちろん、カット割りなども、かなり原作に忠実にしている。まさにこれこそが漫画原作の実写化の回答ですと言わんばかりに原作に忠実である。
キャスティング、ストーリー、カット割り・・・、すべて原作に忠実に再現する。これこそが漫画原作の実写化の正しい作り方ではないでしょうか?某「ドラギョン・ボール」製作スタッフさんよ!?

ただし宗教団体の集会や、コンサート、そして軍隊の描写などはどうもチープに見える。空港や国会議事堂の爆破に関しても映像的には見れるのだが、音響がいまいちついていっていない感じがした。
ハリウッドのCG業界にも日本人が多数いる現状を見ても、映像的には日本のCG技術というのは、もう世界有数のレベルなのだと思うが、それを補完すべき音響の部分で差があると思う。あと最初から最後までCGのレベルが高レベルで保たれていないのも問題だろう。シーンによっては素晴らしいのに、別のシーンのCGがいかにも手抜きしてます、っていうのが、見えてしまうことが日本映画の場合よくある。

あとは原作にも言えることだが、ケンヂはどうしてあんなにも小さい時の記憶がないのだろうか?というのは気になる。例えば、予言の書に建物が爆破された絵があり、日本人なら誰もが国会議事堂だと気づく絵なのに、ケンヂとその仲間たちはその絵がどこなのか、誰一人気づかないのはどうなのだろう?
それと、この作品からは原作の1つの主題とも言えるある種の怖さのようなものが伝わってこない。例えば、自分の友達が"ともだち"信者によって追い詰められていく際の心理だったり、その"ともだち"信者の盲目的な信仰だったり、細菌兵器によって次々に死んでいく人々の恐怖感だったり、そういった類の怖さが伝わってこなかった。
だから、最後に仲間が団結して巨大ロボットに立ち向かうシーンもあまり響かないし、そもそも仲間が一致するまでの途中過程の人間ドラマがほとんどないため、なぜここまで強い仲間意識を持ったのか、やや理解に苦しむ。
原作を読んでない人ならなおさらではないだろうか?

しかし、原作においても整理が大変な過去、現在、未来の行ったり来たりに関してはうまくまとめられていたと思う。それぞれの時間軸の変わるタイミング良いと言えばわかりやすいだろうか?適度なタイミングで過去から未来へ、あるいは未来から過去へと戻り、再び別の時間へシーンが転換されるまでの時間配分も絶妙。この作品のように何度も過去と未来を行ったり、来たりする設定の作品は作品の最後になるまで時間設定があやふやになったりするものだが、この作品に関してはそれはなかった。
脚本が良いのだろうか?それとも監督の演出だろうか?はたまた編集の技術だろうか?いずれにせよ、この点は高く評価したい。時間軸に関して、ただ一つ難点を挙げるとすれば、ケンヂが「良く覚えていない」と言っているのに、映像上はハッキリと画面に映ってしまっている点だけである。

個人的に笑わせてもらったのは、駄菓子屋の研ナオコ。彼女だけ、まるで「ゲゲゲの鬼太郎」の世界から抜け出してきた妖怪のような容姿だったのは個人的にツボだった。

とはいえ、今回は3部作の第1部。ってことで、今回提示した難点も第2部、第3部で解決される可能性も十分にあり得るし、最初から3部作だと言っている映画の第1部だけで点をつけるのも難しいが、とりあえず今回はこの辺りで。

一口コメント:
有名漫画の実写化という意味では合格です。

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