トロン:レガシー/TRON:LEGACY
採点:★★★★★★☆☆☆☆
2010年12月19日(映画館)
主演:ギャレット・ヘドランド、ジェフ・ブリッジス、オリヴィア・ワイルド
監督:ジョセフ・コシンスキー

予告編を見た時に初めて「マトリックス」を見た時に受けた衝撃と同じようなものを感じで、この冬の一押しの大作ということもあり、楽しみにしていた作品。

デジタル業界のカリスマであり、エンコム社のCEOでもあるケヴィン・フリンの謎の失踪から20年が経った。27歳に成長した息子のサムはある日、父の親友から渡された鍵を手に昔父が経営していたゲームセンターに足を踏み入れる。そしてそこでコンピューター内部の世界へと転送されてしまう。
迷い込んだ世界で命を狙われ、サバイバル・ゲームに強制的に参加させられるサム。現実世界でも警察を撒くほどの腕前だったバイク・ゲームの最中に、絶体絶命の危機に落ちたサムをクオラという女性に救われる―――。

なんだろう、この違和感。見ている最中の興奮と見終わった後の虚無感。

映画は冒頭"2Dで撮影した部分がありますが、全編通して3Dメガネをおかけください"といった趣旨のメッセージで始まる。これは現実世界は2D、コンピューターの作り出す仮想世界は3Dという区分けを明確にするためのメッセージだったのだが、実際これは効果があり、現実世界から仮想世界へ入った瞬間の3Dによる奥行き感は素晴らしい演出になっている。さらにオープニングのスタジオ・ロゴのシンデレラ城もトロン使用になっており、以下にディズニーがこの作品に力を入れているのかが伝わってくる。
作品世界を区別・成立させるための2D/3Dの使い分けという点では、この作品は今までの3D作品とは一線を画している。が「アバター」より進化したカメラを使用したとの触れ込みがあったにも関わらず、黒い背景という仮想空間上の設定のためか、そこまでの"進化"を感じることはできない。某「海○3」よりは断然3Dとして成立しているが・・・。
さて、テーマパークでよく見る、スクリーンに対して映像が手前に飛び出してくるものが3D映画の醍醐味みたいな風潮があるが、この作品にしろ、「アバター」にしろ、画面に対して手前ではなく、奥行きを持たせるという技法が目立ち、今後の3D作品というのは"飛び出し"ではなく、"奥行き感"をいかに出していくかが、鍵となっていくのだろうということがこの3D大作2作品からうかがい知れるという意味においては、この作品は3Dの方向性を決定づけるという大きな役目を担っている。

そしてこの作品の目玉とも言うべき、仮想世界のビジュアル。黒い空を背景に青白い光とオレンジ色の光に彩られた蛍光色のスーツ、オートバイに似たライト・サイクルによるチェース・バトルや円盤状のハードディスクを投げ合うバトル・シーンなどの映像はすさまじいものがある。
中でもライト・サイクルのバトルは歴代SF映画のバトルシーンの中でもTOP3には入るであろう傑作である。単純にチェースをするだけでなく、バイクの後ろから出る光のカーテンのようなものにぶつかっても破壊されてしまうという設定。さらに単純な平面状のチェースではなく、透明な床の2階建て構造のサーキットを使って、3D映画の中でさらに横だけではなく、床の上と下を使った別の3次元を活かしたスリリングなバトル・シーンの演出はお見事。

そしてこの作品のもう1つの目玉はCGによる若返り。「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」でも使用されたCGらしいが、30代と50代の同一人物の顔をメイクを用いずCGによって違和感なく描き出す技術はもはや芸術である。

がここまでである。冒頭に書いた見ている最中の興奮というのは上記のような部分部分の見た目の楽しさであり、見終わった後の虚無感というのが、ここから書くストーリーの薄さに起因する部分である。
1980年代に世界初のCG映画ということで公開された当初にこの世界観を描いていれば、それこそ自分が初めて「マトリックス」を見た時と同等、あるいはそれ以上の衝撃を受けただろうが、仮想世界における人間vsコンピューターの戦いという設定が珍しくもなくなってしまったこの時代においては、正直ストーリーがつまらないし、何の新鮮味もない。
逆に言えば、この作品が人間vsコンピューターを描いた初めて見る映画であるような若い世代の人たちにとっては、一つの活気的な作品として残るのだろうが・・・。

例えば登場人物。主役のギャレットが何か魅力がないというか、オーラがないというか、どうも冴えない。クオラ役のオリヴィアは見た目は綺麗で魅力的なのだが、キャラとしての深みがないというか存在意義が感じられないというか、1人の登場人物としてみた場合はやはり薄い。「フィフス・エレメント」のゲイリー・オールドマンを意識したかのような演技のマイケル・シーンは頑張っているが、どうも作品に合わない。タイトルにまでなっている"トロン"など、なぜ彼がタイトルなのか?すら怪しい描き方で、内容的にはトロンではなく、"フリン"のほうが当てはまる。
唯一深みがあるのが、ジェフ演じる父親ということになるのだが、クレジット的には主演でも役どころは助演で、彼以外には深みのあるキャラが1人もいない。感情移入できるキャラが主演ではなく、助演の1人だけではやはり作品として面白みはない。彼以外にあと2、3人このキャラ良いなとか、憎らしいと思えるキャラがいるだけで作品としての深みが増すだけにもう少しキャラクタ描写にもこだわってほしかった。

結論としてはビジュアル的には次世代の映画という感じがするが、ストーリーとしては1世代前の映画ということで、見ている最中はエキサイティングだが、見終わった後には何も残らない作品です。

一口コメント:
ビジュアル的には次世代だが、ストーリーは1世代前の作品です。

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