アバター/AVATAR
採点:★★★★★★★★☆☆
2009年12月17日(試写会)
主演:サム・ワーシントン、ゾーイ・サルダナ
監督:ジェームズ・キャメロン

公開当時世界中で新記録を打ちたて、現在でも世界興行収入で2位以下を大きく引き離す1800億円の記録を持っている「タイタニック」から12年ぶりのジェームズ・キャメロン監督最新作ということで、楽しみにしていた作品。

地球から遠く離れた衛星パンドラ。そこにナヴィという種族が生息していた。パンドラには非常に高値で売れる鉱石があり、人類はその鉱石を求めてパンドラを侵略することにする。だが、人間はパンドラの大気中では呼吸ができないため、遺伝子操作により人間とナヴィを組み合わせた肉体、アバターを生み出した。
そしてこのアバターに融合するために選ばれた人間の1人が下半身不随の元軍人ジェイクだった。ジェイクはアバターのボディを通して、アバターに融合中のみではあるが、再び歩ける体を取り戻すことができるようになったのだ。
パンドラのジャングル深くに偵察隊員として送り込まれたジェイクは、若いナヴィの女性ネイティリと出会い、次第にナヴィの種族と打ち解けていき、ネイティリと恋に落ちてしまう・・・。
その結果、ジェイクは採掘活動を進めるためにナヴィの聖地を破壊しようとする人間とそれを守ろうとするナヴィの間で苦悩することとなる。そしていよいよ人類vsナヴィの最終決戦が始まった―――。

期待値が高すぎたのか、スケールが壮大すぎたのか、監督が何を伝えたいのか、イマイチわからなかった。「タイタニック」を見終わった時のような高揚感というのがなかったのだ。
アメリカの試写会や公開初日の上映というのは、基本的に上映終了後、拍手が起こるのが通例である。特に多くの人が待っていた、いわゆる大作映画では100%と言っても良い。それが今作については、終了後の拍手が非常に少なかった。おそらく自分と同じようにイマイチ内容が伝わってこなかったのか、あるいは?が頭の中をめぐったのか・・・といったところではないだろうか?

この映画のために監督が開発したカメラのおかげもあってか、映像的には今までに見た映画の中でもダントツで綺麗で、3Dならではの奥行き感というのも際立っていた。
オープニングのパンドラへと下りて行く人類の宇宙船やら飛行機の映像は「スター・ウォーズ」のそれを髣髴とさせるし、空に浮かぶ島々は宮崎駿の世界観に通じるものがある。また大地を歩けば、足が触れた部分は光を発する草で覆われ、生い茂る木々や草木も非常に綺麗なものばかり。
物語中盤に主人公がナヴィの体でパンドラに住む馬のような動物や、ドラゴンのような動物に乗る訓練を見せるシーンがあるのだが、この訓練シーンは、見たことのない想像上の生物に人間が乗るという意味では「ロード・オブ・ザ・リング」である。

しかし監督の頭の中にある世界観を映像にしたためか、綺麗!とか壮大!というのは伝わるのだが、イマイチ、心の奥を叩かない。驚愕の映像という意味では、地割れだとか、津波に呑み込まれる都市だとか、現実世界をベースにした「2012」の映像の方が、驚きが大きかった。

そしてストーリー。人体融合によって意識は人間のままで、ナヴィという種族の体に入り込み、現実世界では不可能な歩行が可能になるという設定は、プラグをつなぐことで電脳世界に入り、そこで超能力を身につけた主人公を描いた「マトリックス」を思い起こさせる。
さらに最初はあくまでも人間として、味方(=人類)のために敵(=ナヴィ)へと潜入していた主人公が敵と触れ合ううちに味方を裏切り、敵に加担するという展開も過去に何度も見てきたストーリーである。

上述したように、映像もストーリーも過去にどこかで見てきたことのある要素がそこかしこに見られ、「タイタニック」から12年間を得て、完成した作品としては物足りなさが残る。
これが10年前に公開されていれば、ものすごい衝撃を受けたのだろうが、この10年の間にものすごい速度でCG技術は進歩し、どんな映像を見ても、初めて「ジュラシック・パーク」を見た時のような衝撃を受けることはなくなってしまったし、ストーリー的にも、初めて「マトリックス」を見た時のような衝撃を受けるSF作品と言うのは少なくなっている。

こうやって書くと、あまり面白くなさそうに思われるかもしれないが、1つの映画としては非常に面白いのは間違いない。映像的にもストーリー的にも平均点どころか、"上の上"である。

最初は違和感のあったナヴィの青い肌や黄色い目、そしてみんな同じ顔に見えなくもない表情も話が進むに連れて、どんどん違和感がなくなり、一人一人の個性というのもはっきりとしてくる。中でも主人公が恋に落ちるネイティリは作品の後半では、画面に登場する人間の女性よりも、さらに魅力的な女性として自分の目に映る。そうした意味では過去に数多くの映画で描かれてきた、どんな異星人よりも魅力的で、違和感のない現実的なキャラクターとして成り立っていた。
ターミネーター2」で、これ以上ないくらいの恐怖を鑑賞者の脳裏に植え付けた殺戮マシーンを描いたキャメロン監督だが、今作では180度真逆の愛らしい異星人を見事に描ききった。

これを無名の監督が撮った作品として見ていれば、歴史に名を残す作品となっていたかもしれないが、映画史上に燦然と輝く「タイタニック」のジェームズ・キャメロン監督の12年ぶりの新作という、あまりにも高いハードルをクリアするのはさすがに難しかったというだけである。
こんなにも高いハードルを持った監督というのはスピルバーグと彼の2人くらいだろう。

それでもこの作品が映画の歴史上、1つの大きなターニング・ポイントになるのは間違いない。それは3Dとデジタル上映を本格的に普及させたということ。
無論、この作品以前にも3Dの作品はあり、デジタル上映の作品もあったが、それは作品の数でも上映劇場の数の上でもほんの一握りであった。それがこの作品を上映するために全米の大半の劇場が3Dに対応し、デジタル上映に対応する機器を導入したのである。それによって、業界内では今年は3D映画元年とすら呼ばれているのだ。

一口コメント:
一言で言うなら、「マトリックス」+「スター・ウォーズ」÷1=「アバター」です。

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