ジェイソン・ボーン Jason Bourne |
先週、歴代7作目の10点満点をつけた「君の名は。」の前に10点満点をつけた「ボーン・アルティメイタム」以来9年ぶりの正当な続編(途中でマット・デイモン以外でボーンの名前を使った続編もあった・・・)であり、ずっと楽しみにしていた作品。
自分が何者なのか?その記憶を取り戻しCIAの極秘プログラムの内容を暴露したジェイソン・ボーン。世間からは隔絶した生活を送っていた彼の前にCIAの同僚だったニッキーが現れ、ボーンの父親が関わっていたあるプログラムの話を伝える。
その動きを察知したCIAはニッキーを暗殺し、ボーンを追いはじめる―――。
お帰りなさいませ、ジェイソン・ボーン!
前三部作の完成度が非常に高く、かつストーリーとしても完結していて、更に三作目が完璧とも言える内容だったこともあり、新作が作られると聞き、あの完成度を超えるのは無理だろ?という不安もあったが、またあの興奮を味わえるのか?という楽しみの方が大きかった。そして作品を見て、出てきた言葉は、「WELCOM BACK TO SCREEN!(お帰りなさい!)」だった。
正直、内容としては悪い方の予想通りだった。
前三部作には「記憶をなくした自分が何者なのか?」というテーマが三部作を通して、ずっと根底にあり、その上にCIA捜査官同士のハイレベルな駆け引きが乗っていて、ストーリーに緊迫感をもたらしていたのだが、今作はそれがない。
見た目上はチェイス・シーンが一杯あり、画面上の緊迫感はあるのだが、ストーリー上の緊迫感という意味では今までのシリーズに比べるとやや劣ると言わざるを得ない。今作は父親が関わっていた秘密プログラムは何か?を巡ってCIA捜査官同士の陰謀がうずめくという展開が用意されているのだが、記憶喪失だった自分を取り戻した男が父親の関わりが疑われるプログラムを追う?という展開はどことなく今更感が漂い、前三部作ほどの緊張感はない。もちろん三部作がなければ、それはそれで面白い設定なのだが、"ボーン"の名前を使っている以上、そうはならない・・・。
それをカバーしようとしてかどうかはわからないが、実世界でも話題になったスノーデンの名前が何度も登場したり、Googleのサイトも実名で登場したり・・・と、CIAという設定にリアル感をもたらすための工夫はいくつか用意されている。
考えてみれば前作までは原作があったのだが、今作はオリジナルの脚本であり、そのために現実世界と交錯するような描写が多かったのかもしれない。
今回の敵はトミー・リー・ジョーンズ演じるCIA長官デューイなのだが、その昔ハリソン・フォードのヒット作「逃亡者」のスピンオフとして制作された「追跡者」で主演を務めていたこともあり、ボーンを追う役どころとしてはぴったりだ。
そしてその補佐役として登場するのがアリシア・ヴィキャンデル演じるリーも良い。このシリーズ初の美人キャラであり、見た目と同様に凛とした演技とハッキング技術を駆使して、ボーンを追い詰めたかと思えば、逆にそのハッキング技術を使用してボーンを助けたり、一見どっちつかずな対応をしているように見えるが、その裏には確固たる自分の信念を貫く強さも併せ持っている。
ただそんなリーの上を行くのがやはりボーン。特に最後のエンディングは今までと変わらず、もしかすると今まで以上にオシャレ。このラスト・シーンだけでも「ボーン・シリーズここにあり!」と納得できる内容だと思える素晴らしい終わり方だった。
さて上述したようにこのシリーズのウリの1つがチェイス。特に「ボーン・アルティメイタム」のロンドン・ウォータールー駅でのチェイスは史上最高レベルのものだった。
今作におけるチェイスもアテネでのバイクと車、ラスベガスでのカー・チェイスと大きく2つのチェイス・シーンがある。アテネのチェイスは既に前三部作で見たことあるな?という既視感がある。一方のラスベガスはホテルの解体に合わせてスケジュールを組んで撮影をしただけあって、迫力はすごい・・・またSWATの車で一般車をこれでもかというくらいに跳ね飛ばしていくのだが、これがなんかボーン・シリーズっぽくない。
例えるならボーン・シリーズというよりはブラッカイマー・プロデュース作品に近いといっても良い。
ボーンっぽさって、良い意味で"地味"のはずで、今作でも椅子の足を折って敵を叩きのめしたり、カジノのスロットのバーを使ってエレベーターの電子制御盤の蓋を開けたり、ラストの地下道での戦いでもいろいろな小道具が使われている。その小道具でさえ、前三部作で見せた唸るようなものがなかった。
例えばパート2で見せたトースターを利用した時限爆弾やパート3で見せた声紋認証をアナログ手法で解除したり・・・そういった知的な駆け引きが薄かった印象。
ラストシーンを除いて、ダメ出しっぽいものばかりになってしまったが、このシリーズの別の特徴として銃撃シーンが少ないというのがある。厳密には銃撃シーンは多いのだが、主人公であるボーン自身はここぞという場面を除き、あまり銃は使わず、いわゆる雑魚キャラへの射撃はほぼない。そこはしっかりと継承している。
全体として見ると前作が良すぎた為、今作のいろんな部分において見劣りすることが多くなってしまったが、それでも手に汗握る緊迫感は残っていて、この後パート5、パート6と作られることを期待せずにはいられない作品であることは間違いない。