Space Battleship ヤマト
採点:★★★★★★★★☆☆
2010年11月5日(試写会)
主演:木村 拓哉、黒木 メイサ、柳葉 敏郎、山崎 努
監督:山崎 貴

日本初のアニメ原作のSF超大作映画という触れ込みで年初から大々的に宣伝されていた作品。

西暦2199年、地球は謎の異星人"ガミラス"の攻撃で滅亡の危機に瀕していた。ガミラスの遊星爆弾による攻撃で地球上に放射能が充満し、地球上の生物の大半は死滅した。残された僅かな人類は地下都市に隠れ、ガミラスの攻撃に耐えていたが、地下にまで浸透してきた放射能によって人類の滅亡まであと1年余りに迫っていた。そんなある日の事、遠く離れた惑星イスカンダルからメッセージ・カプセルが届く。そのカプセルにはイスカンダルに放射能除去装置があることがメッセージとして入っており、人類は最後の宇宙戦艦ヤマトを建造し、14万8千光年離れたイスカンダルへ向けて出発する。
出発直後、ガミラスの包囲網に囲まれてしまったヤマト。放射能除去装置と同じメッセージに入っていた波動砲という未知なる武器を始動させ、なんとかその包囲網を突破し、ワープを繰り返しながら、太陽系を抜けるもワープの途中でガミラスを巻き込んでしまい、一部の仲間を見捨てざるを得ない状況になってしまう。そこで艦長代理となった古代が下す決断とは---。

過去にも何度か書いてきたが、自分にとっての映画とは、娯楽であり、エンターテインメントである。その原点を"映画=芸術"の傾向が強い日本映画で久々に味わうことができた。2006年の「LIMIT OF LOVE 海猿」以来である。個人的にはこういう作品が年に数本作られるようになると日本映画界の未来も明るいと思うのだが、まだ数年に1本のレベルという現状が悲しい。

さて、自分はこの作品のTVアニメ版は見たことがない。しいて言うなら懐かしのアニメ特集で見たくらい。30代以下の年齢ではそういった人が多くなった今、それを実写映画化することで後の世代に名作を伝えていくという意味ではこの作品は成功だ。某ドラ○ンボールの実写化とは内容・実写化のタイミングともに大きく異なる。
おそらく、この作品を見て、この作品を駄作だと言う"映画=娯楽/エンターテインメント"志向の観客は少数派だろう。"映画=芸術"派は真逆の傾向になるだろうが・・・。もちろんTVアニメを見ていた世代の人たちからは原作ではあぁだった、こうだったという突っ込みはもろもろあるだろうが、オリジナルを知らない世代が多くなった今だからこそ、このタイミングでの実写化は"映画=娯楽/エンターテインメント"という意味においては成功だろう(無論内容を伴っていてこそだが・・・)。なので、この作品については深く考えずに単純にエンターテインメントとして楽しむのがべストだと思う。

VFXの完成度の高さが、良い意味で日本映画らしくないのだが、ストーリー的にかなり濃い内容であるにも関わらず、それをよく2時間強の上映時間でまとめたという点においても、良い意味で日本映画らしくない。
描くべき内容がたくさんある映画というのは、難解なまま、終わってしまったり、1つ1つの小話があまりにも薄かったりして本編なのに予告編であるかのような展開になりがちなのだが、この作品に関しては1つ1つの小話が濃すぎず、薄すぎず、テンポ良く次へ次へとつながっていく。主人公はもちろんキムタク演じる古代なのだが、実は複数の登場人物に焦点を当ててもいる。例えばキムタクと故意に落ちるヒロイン森雪以外にも沖田、真田、島、斉藤といった登場人物にもそれぞれ小話が用意されており、「インディペンデンス・デイ」のような群像映画でもある。そのテンポの良さ・ノリの良さもまた良い意味で日本映画らしくない。

ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズで、はるか未来でもはるか過去でもなく、数十年前に存在した町並みをCGで描き出すという今までとは異なる新しいCGの使い方をした山崎監督だからこそのこの作品である。
スター・ウォーズ」シリーズを彷彿とさせるオープニングから今までの日本映画にはない壮大なスケール感の宇宙空間が描かれ、観客を一気にその世界観に引き込む。日本映画もついにこのレベルまで来たかと嬉しくなった。その後も、地面に埋まっているヤマトが始動するシーンや波動砲発射シーンなど、本当に日本製の映画なのか?CG部分だけルーカス・フィルムに頼んだんじゃないか?と疑いたくなるような完成度である。"日本映画としては"なんて冠言葉はいらず、ハリウッド映画と比べてもまったく遜色のないVFXである。
またアナライザーというキャラクターなどは、まるきり「スター・ウォーズ」シリーズのR2-D2である。

そしてVFXばかりについて話してきたが、ストーリー的にも申し分ない。基本的に登場人物1人1人がある種の目的を持って登場しては死んでいく。目的とは"仲間を救うために"という自己犠牲の精神でもある。そもそもヤマトという名前が実在した戦艦大和(敗戦直前に日本国のために・・・と特攻精神を持って撃沈した船)から来ているのだから、当然と言えば当然のテーマかもしれないが、まだご近所づきあいもあった昭和の時代ならいざ知らず、隣人の名前を知らないことが当たり前の平成の世には新鮮に映る。
また太陽系を出る直前の地球との最後の交信シーンも泣ける。島と言葉を話せない子供の交信、斉藤といつまでもおせっかいな母親の交信で温かい家族愛を見せておいた直後に、家族が誰もいない古代の交信シーン。結局誰とも話さないまま時間が来てしまう。直前の温かい家族愛と誰も家族がいない孤独感の対比が絶妙に上手い!

そして古代を演じたキムタクが今までのテレビ作品と違い、良い。何が違うのかといえば、TVドラマの少しキザというか、すかした感じが薄れて、情に熱い役なのだ。思えば武士の一分の時もTVドラマとは違っていた。キムタクは実はTVではなく、映画でこそ輝く数少ない"映画"俳優なのかもしれない。
そしてスティーヴン・タイラー書き下ろし曲「LOVE LIVES」は名曲だが、映画の内容が良かっただけに、エンディング曲も日本人で勝負して欲しかったというのが率直な意見である。ただし海外を意識して作られた作品なので、その点においては正解だろうか?

この映画のマイナス面。細かいところの突っ込みどころはたくさんあるが、一番の問題点は古代と森の恋愛感情だろう。古代に憧れて入隊した森が古代に恋愛感情を持っているというのはわからなくはないが、二人の展開があまりにも急すぎて、そこについてはやや感情移入しにくい。
そして個人的に一番気になったのは、島が息子との交信した時に画面に映ったキーボード。2199年に今と変わらない、というか5年位前のデスクトップ・パソコンのキーボードを使っている点はかなり冷める。美術監督は何をやっていたんだ?200年近い未来に何で5年前のキーボード?200年後にはキーボードなんてものはないんじゃないかと思うのだが・・・。

ま、何はともあれ全体を通して見た場合、台詞が日本語という部分を除けば、ハリウッドでも十分通用する作品だと思う。それはVFXにおいても、ストーリーのテンポの良さにしても、主題化にしても・・・。この作品が世界でどう受け入れられるのか非常に楽しみである。
そして次はいよいよ日本人製作による外国人主演のガンダムの実写化を期待したい!

一口コメント:
VFX出身の山崎監督だからこそできた日本初の一大SF"エンターテインメント"大作です。

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