ブラザーフッド/Brotherhood
採点:★★★★★★★★★☆
2008年1月19日(映画館)
主演:チャン・ドンゴン、ウォン・ビン
監督:カン・ジェギュ

監督のQAがあるということで、「Shiri/シュリ」と共に見た作品。

1950年の初夏、ソウルでジンテと弟のジンソクは母親、ジンテの婚約者と共に幸せに暮らしていた。だが北朝鮮軍の侵略によって、ジンテとジンソクは兵隊として最前線に送り込まれる。ジンテは危険な戦場へ自ら志願し、勲章を獲得することで、弟を除隊させようとする。しかし自ら危険を好むようにしか見えない兄の姿を、当のジンソクは理解できずにいた・・・。
1950年12月、中国の参戦により、後一歩のところで、戦争終結が夢と散る。ソウルに戦火が迫る中、ジンテとジンソクの2人は家族を救出するためにソウルに戻る。しかしジンテの婚約者が反共自警団により射殺、ジンソクも牢獄に囚われてしまう。
韓国という国が自分の婚約者と弟を殺したと思い込んだジンテは北朝鮮軍の隊長となり、反韓国の戦争を開始する。
実は牢獄を脱出していたジンソクはその事実を知り、自分が最前線に行き、兄の目を覚まさせようとする。そして2人の兄弟は敵として、戦場で再会する―――。

見終わってすぐ、男兄弟が欲しいと心の底から思った。いや、すごい作品である。
分かりやすく言うならば、朝鮮版「プライベート・ライアン」といった作品。
"朝鮮版"とは言っても、ハリウッドの戦争作品と比べて、まったくもって遜色ないどころか、ハリウッドでも十分通じる作品であると言える。しかもそれを14億円というハリウッド作品と比べてはるかに低予算で完成させてしまうのだから、韓国映画恐るべしである。(ただし戦場における戦闘機のCGの完成度が低かったのが残念である)

とにもかくにも圧倒的なまでのリアルな戦場シーンの描写。まさに「プライベート・ライアン」の冒頭30分をこれでもか、これでもか、と全編に及ぶ戦闘シーンに引き伸ばしている。
戦闘シーンが何度も繰り返し挿入されているのだが、正直、途中ちょっと中だるみしてしまう。その理由は、最初から最後までずっと戦闘シーンだけの映画がない理由を考えればわかる。人間というのは慣れてしまう生き物であり、最初から最後までずっと同じでは飽きるのだ。無論、この作品は最初から最後まで戦闘シーンというわけではないのだが、それでもやや戦闘シーンが多すぎて、本来なら盛り上がるはずのシーンもいまいち盛り上がりに欠けてしまう。
要するにメリハリがないのだ。140分の間におそらく5回以上の戦闘シーンが盛り込まれているが、これが3回、多くて4回くらいであれば、より面白い仕上がりになっていたと思う。それこそ久々の10点満点をつけていただろう。

とはいえ、1つ1つのシーンはとても丁寧に作りこまれていて、戦場の凄まじさをこれでもかと言うくらいに伝えてくれる。
戦闘シーンはもちろんのことだが、その他のシーンでも戦場の凄まじさを感じるシーンがいくつかある。例えば、住民が軍隊に殺戮された村で、死体を埋葬しようとしている最中に井戸に仕掛けられた爆弾が爆発するシーンは、自分も含めて一緒に見ていた友人や周囲の観客も普通に驚かされた。

また韓国には徴兵制度があり、当然、スタッフや俳優達も軍隊で軍事訓練を受けているため、銃の扱いや戦場における動作などが非常にリアルである。
この辺りのリアル感や緊迫感は、ハリウッドのそれを上回っていると言える。

しかしこの映画の一番の核は戦場の凄まじさでもなければ、戦争のリアリティでもなく、タイトルにもなっている"兄弟愛"である。
弟のことを思えばこその兄の自虐的行動。しかし兄の行動が過激になればなるほど、離れていく弟。戦争が引き起こした悪循環に陥った兄弟。
しかもそれを北朝鮮に立ち向かう兄弟という単純な北(悪)vs南(兄弟)という構図にしなかったのが上手い。最初はその構図なのだが、途中から北(兄)vs南(弟)という構図に入れ替わり、戦争の無意味さを痛烈なまでに訴えかけてくる。

そして何よりキャスティングが絶妙である。
まず兄役のチャン・ドンゴン。もう神がかりの演技である。映画の冒頭で見せた平和な暮らしの中で弟と戯れるシーンと、最後に北の人間として戦闘に望む彼は、まったくの別人である。1つの作品の中でここまで変われるものか?これこそが役者だと言うことを体現してくれている。この作品での彼の演技を見て、文句をつける人は誰もいないのではないだろうか?
一方、弟を演じるウォンビンもまた素晴らしい。まじめで、どちらかというと情けなく映る高校生が、戦争を経験する中で逞しく成長し、慕っていた兄への反発心を内面から外面すべてにおいて表現している。
この2人以外のキャスティングはありえないくらいにピタリとはまる2人である。

Shiri/シュリ」、「シルミド」、「J S A」と同じく、南北問題を扱った韓国映画に外れはないという方程式がまたしても成り立った傑作。韓国人以外には決して作ることのできない、魂のこもった作品です。

一口コメント:
男兄弟が欲しいと心の底から思われた作品です。

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