ホワイトハウス・ダウン
採点:★★★★★★★★☆☆
2016年3月30日(TV)
主演:チャニング・テイタム、ジェイミー・フォックス
監督:ローランド・エメリッヒ

劇場公開時に同じような映画「エンド・オブ・ホワイトハウス」が公開されていて、「アルマゲドン」と「ディープ・インパクト」がほぼ同時期に公開されたことを思い出しながら、結局劇場に行かなかったが、3月のTV番組改編期に地上波初放送と銘打ち、放映されていた作品。

元軍人のジョン・ケイルはシークレット・サービスを目指し、面接の約束を取り付ける。またジョンはアメリカ大統領ジェームズ・ソイヤーの大ファンである娘とうまく行っておらず、仲直りのきかっけに・・・と面接と同じタイミングで、娘をホワイト・ハウスの見学ツアーに連れていく。
しかし面接は過去の経歴から不採用となってしまう。さらに娘の為に参加した見学ツアーの最中にテロ事件が発生し、テロリストたちがホワイトハウスへと乗り込んでくる―――!!

TVで気軽に見たせいもあってか、とても面白かった・・・が、映画館で見ていたらまた違った感想になっていたかもしれない・・・そんな気もする、そんな作品です。
ハラハラドキドキの連続による手に汗握る緊張感とユーモアのバランスが素晴らしく、時代背景を活かしたブラック・ジョークも効いていて、笑いあり、感動ありの作品に仕上がっている。

監督は「インディペンデンス・デイ」や「デイ・アフター・トゥモロー」、「2012」と地球規模のパニック映画を撮らせたら、右に出るものなしのローランド・エメリッヒ。
過去の作品で何度もホワイトハウスを破壊してきた彼が満を持して・・・というか、遂に・・・というか、いよいよホワイトハウスを舞台にした映画を撮ったわけだが、正直、過去の"地球規模"感はなく、壮大なスケール感みたいなものはないが、それでも彼ならではの方程式は成立しており、彼の作品が合う人にとってはおなじみの安心感を楽しめるが、そうでない人にとってはただのB級映画で終わってしまう。自分はもちろん前者なので、かなり楽しめた。
そして今までと大きく異なる点もある。地球規模からホワイトハウスへとスケールを絞ったこともあり、登場人物のキャラクター描写が今までよりも深くなっている。中でも主元軍人で現在職探し中の主人公とアメリカ大統領という凸凹コンビによるバディ・ムービーとしての要素は今までの作品とは大きな相違点であり、テロリストの襲撃によるUPDOWNのあるストーリー展開に、この2人が繰り広げるドタバタ劇による笑いが心のUPDOWNをもたらし、相乗効果によって最初から最後まで飽きることなく映画を楽しむことができる。
中でもホワイトハウスの庭におけるチェイス・シーンは秀逸。今までとは異なる限られたスペースの中で、ありとあらゆる手段を講じてテロリストから逃げる。その最中に大統領が自らの手でロケット・ランチャーを撃つシーンはよくよく考えれば、トンデモナイシーンとして悪い意味で後世に語り継がれるシーンになり得るのだが、そこはさすがエメリッヒ!その前後にそれ以上の"トンデモ"を配置し、一連の流れの中に上手く組み込んでさらっと流している。

また脚本も今までのエメリッヒ作品に比べてうまくできている(あくまで今までのエメリッヒ作品と比べて・・・の話)。その主な理由は上述の人物描写。今までの作品と異なり、登場人物に感情移入がしやすい。その対象は主人公であり、大統領であり、そして影のMVPともいうべき主人公の娘である。
テロに襲われながらも、子供ながらの怖いもの見たさに現代のテクノロジーが加わり、とある行動を起こすあたりは自分が子供時代に立ち入り禁止の場所に入ったりしたことを思い出した。そしてドラクロワの作品「民衆を導く自由の女神」を思い出させるラスト・シーン。いかにもアメリカらしい演出で、あの瞬間に彼女はこの作品の影のMVPとなった。
そしてもう1人、個人的に気に入ったのが、ツアー・ガイドのドニー。ホワイトハウスをこよなく愛する人物として、ホワイトハウス内部の部屋数やトイレの数など、事細かにホワイトハウスのことを記憶していて、作品が「スクリーム」なら真っ先に殺されそうなキャラ設定なのだが、幸いなことにエメリッヒ作品では愛すべきキャラとして描かれていて、彼にも見せ場が用意されているあたりは、今まで地球規模の群像劇を描いてきたエメリッヒの演出が奏功している。
一方、ホワイトハウスを占拠するまでは手際の良かった犯人たちが、その内部でたった一人の人間に翻弄されてしまう手際の悪さや、乱射される銃撃も主人公には決して当たらないご都合主義なども良い意味でエメリッヒ印として描かれていて、このあたりも安心して見れる。最後の最後、胸に入れていたあるもののおかげで、ある人物の命が助かるシーンなんて21世紀の映画としては古典的すぎて誰も使わない演出を敢えて入れ込むあたりが、これまた良い意味でエメリッヒ節!

逆に今までのエメリッヒとは異なり、ここまで描くのか?という細かい描写や伏線の張り方が多かったのも事実。
描写で言えば、大統領専用ヘリでホワイトハウスに着陸するシーンの厳重さだったり、大統領が任務を果たせないと判断された時に行われる権限移譲だったり、今までにも他の映画で何度か見たことはあるが、この作品が上手いのは事件の深刻さを見せるためのシーンだけでなく、この権限移譲の行為そのものが実はある伏線になっている点。
他にもリンカーン信望者である大統領がリンカーン・メモリアルに向かって低空飛行を指示するシーンが実は後に活きてくる伏線だったり、上述のツアー・ガイドの口頭によるホワイトハウス内部の説明が、ガイドとしての説明だけでなく、我々観客にとってのこれから起きるパニック映画の舞台説明も兼ねていたり、娘が人質になるというありふれたストーリーが実はこの物語の核と言うべき伏線だったり・・・、パニック映画でありながら、ちょっとしたサスペンス映画の要素も楽しめる。特に黒幕が誰なのか?という謎解きは最後の最後まで観客を飽きさせない工夫として非常に効果的。大統領が指揮をとれなくなったとき、アメリカではこうやって指揮権が委譲されていくんだということも勉強になる(笑)。

まとめるとホワイト・ハウス版「ダイ・ハード」。これがピッタリな作品かもしれな。考えてみれば、「ダイ・ハード」の主人公の名前もジョンだったし・・・(偶然か!?)。

一口コメント:
一言で言えばホワイト・ハウス版「ダイ・ハード」、TV視聴向けには間違いなく最適な作品です。

戻る