バクマン。 |
「モテキ」の大根仁監督が「DEATH NOTE」の原作コンビによる、週刊少年ジャンプで連載されていたジャンプの裏側を描いた作品を実写化ということで楽しみにしていた作品。
ストーリーを考えるのが得意で漫画家になりたいが、画力のない高校生・高木秋人は同級生で絵の上手い真城最高に、一緒に漫画家になろうと声をかける。乗り気ではなかった真城だったが、恋心を抱いていたクラスメートの亜豆美保が声優を目指していることを知り、二人が描いた漫画がアニメ化された際に亜豆が声優を務めるという約束を交わし、2人で作品を描き始める。
2人は週刊少年ジャンプで連載するという目標を叶えるため、編集部に読み切り漫画を持ち込み、そこで服部という編集者に出会う。この出会いがきかっけとなり、手塚賞に作品を応募することに―――!
漫画原作の実写化というのは賛否両論、いろんな意見が出てくるが、この作品は「GANTZ」、「寄生獣」といった最近の漫画原作とは大きく異なる。漫画を描くことをストーリーのど真ん中に据え、登場人物たちの成長を描くという人間ドラマの物語であり、CG処理や特撮が必要な内容ではない・・・という漫画原作とは思えない、地味な内容なのだ。CG処理や特撮という要素を除けば「宇宙兄弟」に近い感覚と言えるかもしれない。
インクで手や顔を汚し、スクリーントーンの削りカスで服を汚し・・・といった地味な作業であっても映画である以上エンタメとして楽しめるビジュアルが必要。そこでこの作品は地味なはずの作業をCGと3Dマッピング技術を駆使して、少年ジャンプの王道であるバトル風のビジュアルに上手く変更している。はっきり言ってこうした最新技術などなくても、この作品を作ることはできるはずだが、それを映画ということで敢えて派手にするための演出の1手段として、CGと3Dマッピングを使う制作陣の思い切りとセンスの良さに感動させられた。
またそれらを補うようなペン入れの"カリッカリッ"という音や線を引くときの"スーッ"という音のリアルさもあり、視覚と聴覚で楽しむことができる。
また途中、手塚賞の同期受賞関係者が「スラムダンク」などの名台詞を使って漫画について語り合う場面があり、登場人物たちがどれだけ漫画を好きなのか?伝えるシーンがある。このシーンは見ていて「そうそう!」といった感じで、自分がその同期メンバーの1人になったかのような錯覚を覚えさせる。感情移入という意味では、これ以上ないシーン。
そして上記のスラダン談義の流れを踏まえた上で、主人公2人がコンビを結成した際に作った握手に関する約束。何度かの条件変更を乗り越え、ようやくその瞬間がやってきた際の演出もスラムダンクのラスト、桜木と流川のあのシーンとかぶせてあり、ジャンプ好き(特にスラダン好き)にはたまらない演出となっている。
またジャンプ原作でありながら、ドラえもんをはじめとする他誌の連載漫画のコミックやフィギアなどが並べられているあたり、漫画へのこだわりが感じられる(著作権のクリアなどに対する裏の作業量も半端ではないだろう・・・)。
エンドロールも本棚に並ぶ漫画の背表紙のタイトル(=美術などの肩書)と作者(=担当者)といった面白い演出を施していて、しかもその漫画のタイトルも過去の有名作品をパロディ化したものとなっていて、とても面白い。その本棚の中にDEATH NOTEやバクマン。の実在するコミックが並んでいるのも面白い。そして本当に最後の最後で、作品冒頭に提示され、途中で回収されたと思っていた伏線がもう一度別の展開で締められているところも絶妙だ!
キャスティングも良い!神木隆之介は子役出身だが、本当に良い役者になった。原作を知っていると佐藤健と神木隆之介のキャスティングは逆じゃないか?と作品を見るまでは思ってしまうかもしれないが、作品を見終わるとこのキャスティングで良かったと思える。その一因は佐藤健の少し抑えた演技であることは疑いの余地がない。しかし一番大きな要因は神木のひたすらな漫画に対する情熱の演技だと思う。親父が漫画家だったパートナーの作業部屋に初めて入った時のはしゃぎ振り、かと思いきや編集部での真摯な姿勢、そのふり幅はさすがの安定感!
また編集の服部を演じた山田孝之も良かった。タミヤのTシャツを着て、雑誌が高く積まれたデスクに埋もれた初登場シーンに始まり、主人公2人を熱く支える演技。「編集部と作家が対立した時には作家側につくのが本当の編集だ!」の名台詞もあり、助演男優賞間違いなしの演技だった。
ただし、アシスタントも付けさせず、病気で倒れるまで漫画を描かせ続けるというキャラの設定自体に問題はあるが、そこは彼の演技力とは関係ない・・・。
演出、キャスティングなどに関しては素晴らしかったのだが、脚本に関してはイマイチな点が多かったのも事実。その最たるものが、上述の服部のキャラ設定というか、原作では丁寧に描かれていたアシスタントの描写をバッサリ切ってしまったこと。
原作を読んでいなくても漫画を描くにはアシスタントが必要不可欠という事実を知っている人からすれば、連載作家でありながら、アシスタントがいないという描写はあまりにも非現実的すぎる設定ではないだろうか?しかも連載を抱えている同期の作家が主人公作家のアシスタントをするというのはひどい。ジャンプのテーマでもある"友情"を描きたかったのだろうが、このやり方はどうだろう?
20冊もの原作を2時間に収めるために時間が足りないというのもあるかもしれないが、アシスタントの描写をカットするなら、亜豆とのあまり意味のない恋愛描写を削って、ラブコメ要素をなくし、漫画愛を一筋に描いても面白かったかもしれない。
そして、人気が落ちたら女性キャラを出すだけで人気が復活するくだりや一つ一つのコマ割りなどの理由付けをもっと深く描くべきだった。実写版「DEATH NOTE」のLの推理の裏側が描写されてないのと同じミスで、残念。
せっかく漫画に対する熱い思いを持ったキャラが複数登場するのに、スラダン討議以外に漫画に対する深い愛情を感じられるシーンが少なかったのも残念。これも亜豆との恋愛描写に時間を割いてしまった弊害か?
また演出は素晴らしいと言ったが、演出がくどいシーンも2つあった。1つは主人公コンビがライバル新妻とランキング1位をかけてバトルするシーン。ペンを武器にして、漫画を描きながら背景がCG合成されて、互いの漫画をぶつけあうというシーン。演出自体は今までに見たことがなく(そもそも漫画を書く映画の実写が今までなかった・・・はず?)、非常に斬新で面白かったのだが、長い・・・。
そしてもう1つが巻頭カラーとなった号をたくさんの人が手にしているのを見せるシーン。通勤途中の電車の中、食堂でご飯を食べる労働者・・・、学校帰りの小学生・・・、コインランドリーで待機中のカップル・・・などなど、いろんなシチュエーションでいろんな年代の人間がジャンプを手にするのを描くのだが、これまた長い・・・。
なにはともあれ、こんな作品を作れるのは日本人しかいないだろう。そもそも漫画の週刊誌が無数にあり、それが毎週1000万部近い数売れている国が日本以外には存在しないのだから・・・。
そういう意味ではこの作品が海外の映画祭でどういう評価を受けるのか、とても興味がある。
COOL JAPANという政府主導の日本文化輸出の先方とも言うべき漫画とアニメのリアルな制作現場を描いた原作をベースに、少しファンタジー色を増した実写版。なんだかんだ悪い点も書いたが、全体としては素晴らしい仕上がりで、続編があるなら見てみたい作品です。